第53話 という事にした

初めてスケルトンを倒し意気揚々と城の中庭に戻った時には、とうに日が暮れていて暗闇に包まれていた。

居間に戻ると直ぐに私の誕生日会の準備が始まったのであるが、私は二人から椅子に座っておくように厳命されていて、現在ひとり寂しく椅子に座っている。

とはいえ、その時間はそれほど長かったわけでもなく、ユーリーとカヤさんは事前に調理していた料理を持って私のもとに現れた。

二人はテキパキとテーブルの上に、それを置いていき、オーブンで温め直された料理は、ほかほかと湯気が立ち上っている。


ぐぎゅるるるる。


即座に両手をお腹にあてがって、少しでも音が周囲に聞こえないようにしたが、当然ながらそれは全くの無駄であった。

ユーリーの表情は、明らかに笑うのを我慢している顔だったのだから。

カヤさんは…といえば、何事も無かったかのように準備を進めている。

程なく、二人とも席に座り、ささやかながらの誕生日会が始まったのだった。

なお、馬小屋に居るアルマーズにも、事前に新鮮なニンジンが振舞われている。


「このコカトリスのもも肉の照り焼き、凄く美味しいわ」


「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」


その言葉から、作られたのはカヤさんである事は明白であった。

ユーリーが作る料理も美味しいけれど、流石は年の功といったところ。

次に口にしたのは、シチウ。

堅パンをちぎり、シチウにつけてほぐしてから口の中に入れ、そのあとスプーンでジャガイモやらニンジンやらタマネギやらの具材を味わった。


「このシチウもいつもより美味しく感じるわ」


「ははは、いつもと同じシチウだよ」

「でも、そう言って貰えると嬉しいよ。ありがとう、マリア」


そう言って、照れ笑いをした。


「いえ、本当に素晴らしいです。ユーリーさん」

「そのお年で、既にこれほどの物を作ることが出来るなんて」


「はい、ありがとうございます」


「これなら、いつでも良きお婿さんになれますね」


カヤさんのその言葉に、思わず口に入れていたシチウを盛大に噴き出すところだった。


「ほほほ、カヤさん。ユーリーにはまだ早いですわ」


ほんの少しだけ口から噴き出していたシチウを布巾で拭きつつ、私は答えた。


「そうでしょうか。もう成人しておられますし、何も問題ないと思われますが」

「マリアさんも成人されていますし、ユーリーさんと結婚されてはどうでしょう」


私は盛大に吹き出してしまうが、シチウは既に飲み込んでいたので、空気だけで済んだ。

ちらっと、ユーリーの方に視線を向けると、頬を朱色に染めた顔をしていた。

少しの間の沈黙のあと、最初に口を開いたのはカヤさんだった。


「これは大変失礼いたしました」

「私如きが余計な事を口にしてしまいました」


「い、いえ。そんな謝らないで下さい。カヤさんは何も悪くありませんわ」


「そ、そうです。カヤさんは悪くないです」


「そう言っていただけると助かります」

「しかし、お二人がお似合いだと思ったのは事実です」

「あ、済みません。また余計な事を」


その後、更に少しの間、ギクシャクしながら食事が続いたのだった。

メインの食事も終わり、今、テーブルの上にあるのはカヤさんが事前に購入してくれていたケーキ。

飲み物は紅茶で、これはユーリーが淹れてくれたもの。

そして、それ以外にもテーブルの上には箱が二箱置かれていた。

そう、どう見ても私の誕生日プレゼントだ。

先ずは、年長者のカヤさんの箱から開封すると、小さな緑色の宝石が三つ取り付けられた髪留めだった。


「わぁ、綺麗な宝石」


「それは、翡翠と呼ばれる宝石で、貴方様の祖母ネネカ様が若い頃に付けておられたものと同じ品です」


「おばあ様と同じもの…カヤさん、ありがとうございます。とても嬉しいですわ」


「喜んでいただき恐縮です」


そして、次にユーリーの箱を開封すると、出て来たのは更に小さな箱で、真ん中から開けられる仕組みになっていた。

それを開けて目に飛び込んできたのは、指輪だった。


「えっ!?これって、まさか…」


「うん。装備すると、魔法攻撃力と魔法抵抗力が0.5%ずつ上がるんだ」


「え?装備?…あ…うん…そりゃそうよね」

「でも、嬉しいわ。ありがとう、ユーリー」


ユーリーは、俯きながら照れ笑いをしている。

先ほどの件もあって勘違いしてしまったけれど、どうやら、ユーリーも同じことを思ってしまったようだった。

それはともかく、早速、髪留めを右のこめかみ付近に取り付け、指輪は左の薬指に装備した。


「え、マリア、そこは…」


「ん?いいのいいの。こうしておけば、変な虫が寄って来ないだろうし、ちょうど良かったわ」


「そう?ならいいのだけれど」


そんな、私をカヤさんは優しい笑顔で見ていたと、あとでユーリーから聞いたのだけれど、その時の私は全く気付いていなかった。

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