第43話 ユーリーの好みではないわね

居間にて。


「どうぞ」


そう言って、ユーリーは紅茶とクッキーを彼女の席の前に置いた。


「恐縮です」

「遅れましたが、こちらのふみをマスター…いえ、ニェボルニェカ様と蒼治良そうじろう様より預かっております」


「ありがとうございます」


私は、彼女の持ってきた文を開き、内容を確認する。

あ、ちなみに、ニェボルニェカは私のおばあ様で、蒼治良はおじい様である。

文の内容を端的に説明すると、堅苦しい時候の挨拶から始まり、おじ様ユーリーの父の依頼でジェラート・カヤさんをこちらに寄こしたこと、彼女が許可するまで退治や討伐等の危険な依頼は受けない事などなど、色々書かれている。

最後に、これまた堅苦しく、おじい様共々私たちの成長を願っている、という内容が書かれていた。

直接お目にかかったのは、去年の成人式の時だけなのだけれど、文のあちこちから私のことを想ってくれていることがよく伝わって来る内容だった。


「別にお手紙でなくても、事前にご連絡いただければよろしかったのに」

「去年、メールアドレスやSNSアカウントを交換したのを、お忘れなのかしら」


「いえ、それはありません」


と、即座にジェラート・カヤさんは否定した。


「ネネカ様は、毎日マリア様のアカウントを眺めては嬉しそうにしておられます」

「蒼治良様におかれましても、毎日のように長文を作成しながら送ろうか送るまいか、こんな長文を送って引かれないかどうか悩んでおられます」


ちなみに『ネネカ』という名前は、おばあ様の愛称である。

どこか遠い人のように感じていたのだけれど、そうではなかったようだ。

ただ、それはそれで愛が重いのだけれど。


「内容は理解しました」

「それはそうと、カヤさんは自分の足だけでこちらへ来られたのですか?」


「はい。ガザンより参りました」

「2時間ちょっと掛かったでしょうか」


「2時間っ!?」


わたしとユーリーは、顔を見合わせた。

何故なら、ガザンの街からここまでは200km以上離れているからだ。

馬車を休まず走らせても、最低14時間はかかる。


「普通の人では、とても真似出来ない芸当ですわ」


「そうですね。私は人ではありませんので」

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