第38話 10倍返しにしてあげる

「マリア!」


「…っ!」


山賊の攻撃は速く、私もユーリーも全く反応が出来なかった。

しかし、私の喉に突き刺さるスレスレのところで、男のナイフは止まっていた。


「はい、終わりぃ」


男は勝ち誇ったかのように言うと、ナイフを戻し仕舞う。


「他の山賊なら、今ので死んでるぜ」


山賊の頭は、ナイフを突きつけた男に代わり言葉を続けた。

程なく、私から鞄を奪って中身を漁っていた、他の山賊の一人が頭と呼ばれる男に近づく。


「お頭ぁ!この娘っ子、結構たんまり持ってやしたぜ」


お頭と呼ばれる男は、その男が手に持っている私のお金の入った袋の中を覗き見たあと、私に視線を向けた。


「なかなか貯め込んでるじゃないか、嬢ちゃん」

「それじゃあ、その気迫とこの金に免じて、馬車と壺は置いていってやるよ」

「だが、次はそうは行かないぜ。せいぜい気を付けることだな」


こうして山賊たちは空に響くほど大笑いしたあと、自分たちが乗って来た馬車に乗り込んで去って行った。

山賊たちが見えなくなると、体の力がみるみるうちに抜けていき、その場に座り込んでしまう。


「マリア、大丈夫?」


ユーリーは膝を付き、地面に顔を向けて涙目になっている私の顔を、覗き見るように見ながら、そう言った。


「ユーリー…どうしよう…私…わたし………、一文無しになっちゃったぁ…」


「え!?そっちなの!?」


ユーリーは、私が怖くて泣いていると思ったようだ。

怖かったのは確かなのだけれど、それよりも、せっかく貯めたお金が全て奪われたことの方がショックだった。


「おのれぇ!!!この恨みは、必ず晴らす!!!」


私は、そう言って立ち上がり拳を天に振り上げた。

こうして、馬車と壺のみ手元に残った私たちは、ほうほうのていでジェンヌの街へと帰還したのだった。

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