第30話 心の中でよだれが

「はい、どうぞ」


テーブルに置かれたのは、おば様お手製のクッキーと蜂蜜入りのレモネード。


「それにしても、ユーリーったら、来るなら来るって事前に連絡してくれていたら、もっとマシな物が出せたのに」


ユーリーのお母さんは、少し頬を膨らませながら言う。

あれ?確かユーリーは事前に連絡を入れていたはずなのだけれど…。

それは、ともかくとして。


「いえ、おば様のクッキーとレモネードは、とても美味しくて大好きですわ」


社交辞令でもなんでもなく、本心である。


「そう?それならいいのだけど」

「でも…」


「?」


「マリアちゃん。そろそろ私の事をお母さん・・・・って呼んでいいのよ」


ぶはっ!


と、レモネードを噴き出しかけたのを何とか我慢することに成功した私は、平静を装いながらこう答えた。


「ほほほ、おば様。ユーリーとは、まだそのような間柄ではありませんわ」


まだ・・、という事は、ユーリーをまんざらでもないと思っている、ということで良いのかしら」


おば様は、悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべなら言う。


「えっ!?…いえ、えっ…と…その…」


「お母さん!」


ユーリーが立ち上がって慌てたように言うと同時に、部屋の出入り口から声がした。


「まぁまぁ、それくらいで良いじゃないか、母さん」


その声の主は、ユーリーのお父さんだった。

私は即座に立ち上がると、おば様にした時と同じように挨拶をしようとしたのだけど、瞬時に止められた。


「僕達との間柄で、そんな堅苦しい挨拶は無しにしよう」

「それに…近い将来、マリアちゃんは僕達のになるんだし…ね?」


ユーリーのお父さんはそう言って、私に軽くウインクをした。


「お父さん!」


顔を真っ赤にしながらのユーリーをよそに、ユーリーのお父さんとお母さんは屈託のない笑顔を浮かべたのだった。

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