第29話 アピール、アピール

ユーリーの村は、城と街を結ぶ道のほぼ中間に位置する分かれ道に入って、さらに5kmほど馬車を走らせた所にある。

村の入り口には門番の人が二人立っているけれど、ユーリーは勿論のこと私とも顔見知りであるので顔パスであっさりと通ることが出来る。

とはいえ、村に入ったら直ぐにユーリーの家に到着…という訳ではなく、更に1kmほど奥へ馬車を走らせたところに家はあった。


「ようやく着いた」


もう間もなく着くという所まで来たところで、ユーリーはそう口にした。


「そうね。おじ様とおば様にお会いするのは久しぶりだから、ちょっと緊張しているわ」


「ははは。マリアでも緊張することがあるんだね」


ユーリーは、そう言って屈託のない笑みを浮かべた。

家の門前に馬車を止めると、ユーリーはひょいと軽快に馬車から飛び降りる。


「それじゃあ、呼んでくるよ」


ユーリーはそう言って、玄関へと駆けていった。

私は静かに馬車から降り、ゆっくりとユーリーの後を追う。

もしかしたら、窓から見られているかも知れないので、はしたない姿を見せるわけにはいかない。

馬車の音で来訪者の存在に気付いたのだろうか。

ユーリーが玄関に到着する前に、そのドアは開いた。


「ユーリー、お帰りなさい」

「マリアちゃんも、お久しぶりね」


家から出て来たのは、おば様。

相変わらず圧倒されるほど大きく上下に揺れる二つの物体。

おっといけない…平常心平常心…。


「お久しぶりです。おば様」


何事も無いかのように平静を装い、左足を後ろに引いて右足の膝を少し曲げスカートの裾を広げるように上げて挨拶を行う。

そんな私を見て、おば様はくすくすと笑った。


「私なんかに、そんなにかしこまらなくても良いのよ」

「疲れたでしょ?どうぞ中に入って」


こうして、おば様の案内のもと、私たちは家の中へと入っていった。

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