第25話 おなかへった

ランプの炎を頼りに部屋で普段着に着替え終えた私たちは、居間へ戻るとソファにぐてぇっともたれるように座った。


「あー、疲れたぁ…」


第一声が、先ずそれだった。


「そうだねぇ」


ユーリーは同意したものの、全く疲れているようには見えない。


「僕は、もう何度もやっている事だからね」

「マリアも、何度かやれば慣れていくよ」


そんなものかしら。


「とりあえず、晩御飯用意するね」


ユーリーはそう言うと立ち上がる。


「あ、私も行くわ」


しかし、私が立ち上がろうとしたところでユーリーに止められた。


「マリアは今日が初めてだから、ゆっくりしていて」

「それに、出掛ける前に作っていたものを温めて持ってくるだけだから」


ユーリーは優しい笑顔を向けながらそう言うと、キッチンへと足を向けた。

それを見送った後、私はテレビの電源を入れる。


「また、古いドラマをやっているのね」


映像から、十数年も前のものだと直ぐに分かった。

それを何気に見ていると、ユーリーがキッチンカーに載せた料理と共に戻って来た。


「お待たせ」

「と言っても、残った材料で作っていたもので大したものじゃないけどね」


そう言って、ソファの前に置かれているテーブルに置いていく。

堅パンをしみこませて食べやすいように、水気を多くしたシチウ、具材はジャガイモにタマネギ、ニンジンにコカトリスのもも肉、ブロッコリーが入っている。


「全然十分じゃない」


そう言って、堅パンをシチウにしみ込ませて口に入れた。


「良い…すごく良いわぁ…うぇへへ」


恐らくとろけるような、はしたない顔をしていたに違いない。

ユーリーは苦笑いをしながら、私を見ていたから。


そんな中、テレビではある人物が映った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る