奇襲

 完全に勝利ムードで浮足立っていた。

 そこに付け込まれていた。

 戦争なんてものはほとんど士気によって決定される。一度、勝てると思っていた者が敗北を突きつけられば人なんて脆い。


『ヤバいっ!!!総司令部の方が落とされた!?』


『な、何故!?あそこにはリノナーラ王女殿下が護衛へと着いていたんじゃないのか!?』


『馬鹿野郎ッ!?』


『ザーザーザー』


『て、敵はどこから来たんだ!?』


『わ、わからないっ!?』


『ざーざーざー』


『……っき……がぁ』


『馬鹿野郎っ!落ち着けや!敵の伝達魔法障害くらい跳ねのけろやっ!それでも精強なる我が軍のものなのか!しっかりするのだ!』


『我らは常勝無敗の帝国軍。負けはなし。勝ちはありー!』


『逃げろっ!一度引け!森から逃れろ!敵とてそんな数はいない!立て直せっ!』


『そうだ!逃げろ!逃げろ!』


『ど、どうすれば……いい、誰の意見を聞けばっ!?』


 情報が錯そうしている。

 我が軍の総司令部が叩き落とされ、通信に混乱が生じている。

 無秩序に飛び交う情報に、敵の伝達魔法妨害によって入るノイズにかき消される声、何故の歌に味方の面をして声を上げているもの。

 

 既にこちらの情報伝達網は切れている。あるのはただ混乱だけだ。

 相手側の完全なる奇襲によってこちらの総司令部は壊滅してしまった。


「山から下りてきたか」


 例えるならハンニバルによるアルプス越えだろうか。

 戦争時に活用し、戦略的に利用するなど不可能だと言われていた険しい龍骨山脈から完全にこちらの意表をついて奇襲してきた。

 考えられることとしてはこれくらいだろう……相手がゲリラの構えを取る補給の切れた軍団であるということを考えれば。

 森から抜けて我が軍の総司令部の方にまで行くのはあまりにも無理が過ぎる。


「……あのクソおやじ。やってくれるじゃないか」


 おそらく、この場にいる誰もが考慮すらしていなかった龍骨山脈越え。

 もし、それが出来ると判断し、あまつさえそれをやろうとする気狂いなど自分の父以外に僕は誰も思い浮かばなかった。

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