多勢に無勢

 明らかに僕一人に向けてくるべきではないであろう潤沢な兵力でもって自分のことを360度全方位から取り囲み、上からも下からも、一切隙間なく完全に囲ってくる敵兵たち。


「……クソ、どうして、あんなにも平然としていられるんだ!」


「こ、これだけ実力の乖離があってなお、同じ戦術級なのか」


「夢か?」


 それだけの兵士に囲まれ、常に魔法を浴びせ続けられながらも、僕は一人で魔法の打ち合いを互角に演じていた。


「流石に、多勢に無勢だな」


 とはいえ、どれだけ僕が頑張ろうともあまりにも敵の数が多い。

 常に弾幕として魔法が発射されてくるせいで、一網打尽に出来るような特大魔法は使えないし、なんとか相手に魔法をぶつけてもすぐに誰かしらが回復魔法を使うせいで中々数も減らせない。

 今のところ、まだ最初に殺した一人とうまく瞬殺出来た八名しか倒せていない。


「負けるな!圧倒的に数は俺たちの方が上なんだ!このまま、このままなんとか押し切るのだ!」


 数で押し切りに来るとか辞めて欲しい。

 流石にこれだけの多勢に無勢は卑怯だと思う。


「ふんふんふーん」


 そんなことを考えながらも僕は大量に魔法を唱え続け、攻撃を受け続ける。

 何とか状況を打破出来ればいいが、出来そうにないのだから仕方ない。


「もう十分だ!退却するぞ!」


 そんなやり取りを長らく続けていた果てに。

 突如して敵が敗走を始める。もう一目散に逃げていく。


「落ちろ」


 いきなりの退却に面食らい、動揺するがそれはそれとして僕は逃げていく彼らへと一切の容赦なく追撃の手を加えていく。

 これだけの戦力が集まってくれたのだ、そう簡単に逃すつもりはない。


「逃げろっ!逃げろっ!」


 それに対して彼らは全力で逃亡していく。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 そして、そんな彼らと交差して今度は平均的なレベルの実力者が一団となって僕の方へと迫ってくる。


「……殿か」


 どうやら、相手は一人でも大事な戦力を残したいらしい。


「仕方ない」


 相手も流石に逃げるのが早い……そして、ここで自分の方へと向かって来ている群衆を無視するわけにもいかない。


「諦めるか」


 僕は追撃をするのを諦め、自分の方に向かってくるものたちを全滅させる方に舵を切るのだった。

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