進軍

 長い間続いていた敵軍とのにらみ合いの果てに。

 とうとう敵軍は退却を始めていた。


「こちら、ルノ。敵軍の動きに不可解なところはなし。殿部隊を残して撤退中」


『了解いたしました。それでは、その殿部隊への鉄槌をお願いいたします』


「了解」


 それに伴って始まった我が軍の進軍。

 そんな我が軍の最前線を上空からついて回り、敵軍の様子と自軍の様子を監視している僕は後方で全体指揮を取っているリノと伝達魔法で遠距離から会話していた。


「見よ、天の怒りを、雷霆の審判」


 すぐさま詠唱を唱え終えた僕は魔法を発動させ、リノの命令に従って殿部隊へと強力な魔法を叩き込んでいく。


「全軍!突撃!敵を粉砕しろぉ!」


 その一撃を受けて困惑の広がる殿部隊へと眼下に広がる自軍は攻勢を開始させる。

 まずは実力の高い小隊が陣地に籠ろうとする敵軍へと突貫し、その持ち前の実力で敵兵をなぎ倒していく。


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 そして、小隊が作り出した陣地の穴を広げるように歩兵がなだれ込んでいく。

 相手の陣地の中に入ってしまえばあとは近距離戦だ。圧倒的な数の利を生かして自軍がその手に握られている剣で敵兵を斬り殺していく。


「クソ、クソぉ!」


「投降だ!投降!もう、やめてくれぇ!」


 この世界においては手に持つ武器を捨てたところで魔法があるせいで油断することはできない。

 そのくせに翻訳魔法などはまともにないせいで、自軍の人間が敵兵の言葉を聞き取れることはない。


「あぁあぁあぁぁぁぁぁ」


「痛い……痛いッ!」


 そのため、敵兵がどれだけ投降すると叫んで武器を投げ捨てても容赦なく自軍の兵士は斬り殺していく。


「……」


 その様子を上から眺める……人と人がぶつかり合い、その血を噴き出させ、大量の屍を地面にぶちまけ始めている。

 こんな光景、悍ましいとしかいえないだろう。

 だがしかし、こんなことが平然と起こり得る世界に今の僕は生きているのだ。

 グロいから、人道に反するからと言って目を背け、辞めさせるわけにはいかない。

 

 純粋に敵兵の言葉を知っている僕が相手の言葉をいくら聞き取ることができるとしても戦意を失っていない敵兵がいる以上攻撃の停止は命じられず、このまま戦場の様子を眺めることしか出来ない。

 そのまま敵の殿部隊を自軍が粉砕していくところを眺めるほかない。


「……順調だなぁ」


 怖いくらい順調に進軍できている現状を前に少しだけ危機感を抱きながら僕は自分の職務をこなしていくのだった。

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