退却
互いに防衛線を挟んでの塹壕戦を繰り広げている両軍。
そんな中で、単独で戦場をひっくり返せるような連中が各々好き勝手に暴れまわり、多くの被害を戦場に齎し、時折大規模な個人間の戦闘が勃発する。
そんな魔法があるからこそ起こる産業革命前なのに後よりも熱烈な戦場ではあるが、クリスマスまでには帰れなかった第一次世界大戦とは違ってたった三か月足らずで既に戦況は決まりつつあった。
「……相手ももうすでに限界だろうね」
「そうですね」
多くの高級士官が詰めかけ、ルイス辺境伯も詰めかける司令部において、僕とリノだけが部屋の中央で言葉を話していた。
「個人で攻勢に出ようともリノに返り討ちにされ」
「自軍はルノ様を相手に何も出来ずにボコられ続けているのですから。既に戦術級の魔導士を三名も落としているのでしょう?これはあまりにも痛い損失でしょう」
魔法を用いて戦う魔導士。
この世界では誰もが魔法を使える魔導士ではあるが、そんな中でも格が違う魔導士を戦術級の魔導士と呼ぶのだ。
僕やリノも戦術級の魔導士に分類される。
「それに補給もそろそろ限界だろう」
元より敵国から補給しているのと、自領の中で補給するのとではその量と質が違ってくる。
ましてや、相手は補給のためにはあの狭い龍骨山脈の谷間を通らなければならないのだ。限界が来るのも当然だと言えるだろう。
「……そろそろ、相手も和平か撤退かを選ばなければいけない時期だろう」
当初、こちら側の兵力が800程だったのに対して、敵軍は3000近くの数がこちらへと攻勢しに来ていた。
そんな中で行った遅滞戦術に川のライン上での防衛線。
激闘の末に時間を稼いだことによって、こちらの兵士もようやく前線に並ぶようになってその数は2500にまで膨れ上がっている。
それに対して、敵軍は順調にその数を減らしており、その数が2000を切るような勢いである。
いつの間にかその兵力差が縮まるどころか逆転している。
このまま互いに平押しを続ければ、勝利するのはこちらだろう。
「まぁ、流石に和平は速すぎですけどね。我々は未だ相手の戦線を押しだせているわけではないので」
「まぁ、そうだね……一番骨が折れるのはここからだよなぁ。龍骨山脈の砦をどうやって落とすかだよねぇ」
「それは私に兵士を預けてもらえれば、しっかりと落として見せられますよ?」
「それは考えておくよ……ふぅーむ」
色々話し合った。
その中で、僕がどうしても気になるのはここまで動きのない自分の父親である。
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