戦況

 王都で得られるものをすべて獲得した後、僕はリノも連れて領地の方へと戻ってきていた。

 護衛として共に戻ってきた騎士たちを元の配置へと戻すと共に、予備役から人を集めるように指示し、僕は僕でリノと二人で会議室の方へとやってきていた。


「さて……それで?現状の戦況はどうなっているの?」

 

 リノが隣に立つ中、僕は自分の目の前に広がっている大きな立体的な地図を見ながら首をかしげる。


「既にかなり劣勢と言えるでしょう」


 僕が動くよりも前に子飼いの諜報部隊を動かし、前線の様相を知っているリノが疑問に答えていく。

 父上が勤めていた国境部であり、我が国の防衛上最優先地点を指差しながら口を開く。


「我が国の西部には何も持たぬ状態で領地を開拓したルイス辺境伯の領地が存在しています。だが、その立地上、ルイス辺境伯領の防衛は非常に困難です」


 我が国の西部には何人たりとも寄せ付けない龍骨山脈と呼ばれている巨大な山脈が広がっている。

 その龍骨山脈を通るにはたった一つしかない平地、谷間を通る他ない。

 ゆえに我が国へと西部から侵攻してくる場合にはたった一つの狭い道をどうしても通る他なく、ここに我が国は世界の中で最も規模の大きな砦を設置している。

 我が国はただこの砦の中で防衛を行えばよいだけであり、だからこそ防衛上最強なのである。


「まぁ、そこは防衛上……戦争になれば捨てることになっているでしょう?」

 

 ルイス辺境伯領はその山脈の外側に位置している。

 戦争となれば端から陥落することは織り込み済みであり、ここは問題にならないでしょう。


「えぇ、そうです。既にルイス辺境伯領は陥落し、息も耐え耐えの様相でルイス辺境伯のご一家も退却済みです」


「……問題は父上。この最も大事な砦を守っていた父上の裏切りか」


 最も大きな問題は父上の裏切り……西部の守りにおいて最も肝心の砦に滞在していた父上の裏切りだろう。


「はい。既にここは陥落しています」


 リノは僕の言葉に頷き、龍骨山脈の谷間にある砦へと敵国の旗を立てる。


「……と、なると。僕たちは龍骨山脈という防衛上最大有利地点を捨てた状態での戦闘。具体的には山脈を超えた先にある広大な平原での戦闘になるわけか」


 龍骨を山脈を超えた後、そこに広がっているのは遊牧民が暮らしている広大な平原ある。


「ということになります。現状、我が国はこの広大な平原を生かしたスペースを活かしての遅滞戦術を行っている現状であり、早急な改善が求められる状態です」


「……想像以上にハードな仕事だ」


 必死に遅滞戦術を行っている我が国……それで到着を待つのは僕が率いるラステラ侯爵家の軍団か。

 こんなの、十歳児に任せるような仕事ではないだろう。


「……厳しそうだなぁ」


 だが、これをこなすのが僕の仕事であり、逃げることは出来ないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る