評価
商談はつつがなく済んだ。
「ふぅー……これはこれは」
持続的な武具の販売に食糧販売の契約は何の問題もなく交わされた。
「どうでしたか?商会長様」
ルノとリノナーラが去った後、椅子に腰かけたままの商会長の元に秘書である男が近づき、疑問の声を投げかけてくる。
「……想定外だ」
それに対して商会長は吐き捨てるように言葉を漏らす。
「想像以上にルノという男が食えない。なし崩し的に当主にさせられただけの男だと思っていたが、大物だ」
「……十歳の少年なのでしょう?」
「まったくもってその通りだが、リノナーラ王女殿下の例もあるだろう?」
「いや、……あの御仁はあまりにも例外でしょう?」
「……だと思っていたのだがなぁ」
商会長は先ほど顔を合わせていたルノとリノナーラの二人を思い浮かべる。
リノナーラは相も変わらず人とは思えぬほどの圧迫感を醸し出していた。
それに対して、ルノは泰然自若。
「若く、経験の浅い人など早急な結果を求めるものだが……」
父が反乱を起こして敵国に与し、罪人として領地から王都へと連れてこられたかと思えばなし崩し的に当主となり、あれよこれよという間に反乱軍と戦うことになっているのだ。
本来であればもっと動揺し、焦ってもいてもおかしくないが、ルノは一切ブレることなくどっしりと構えていた。
「遅刻したのは失敗だったな」
五分も、たかが平民風情に遅刻されたというのに笑って受け流して見せた。
商談をご破算にするほどに大荒れしていたとしてもおかしくないというのに。
「それに、リノナーラ王女殿下を完全に抑えていたな」
二人で、示し合わせている可能性もあるが、確実に怒りを見せていたリノナーラを完璧に抑え、自分が彼女を抑えられるに値する男だということすら見せていた。
相手を怒らせ、まともな商談の場ではなくし、こんなにも明らかな地雷を回避しようとした商会長の目論見は完全にルノのおもちゃにされてしまったと言えるだろう。
「……ラステラ侯爵閣下の行動を最大限我が商会でバックアップするように。遅刻しておいて何もなしなど、我らがただの無礼者となる」
「……はっ。本当によろしいので?」
「泥船かと思っていたが、思ったよりも立派だった。初手の段階で私はしくじったが、まだ間に合うだろう。最初に言葉を交わしたという点を何よりも利用していくぞ。新時代の波に乗り遅れるのは命を捨てるようなものだよ」
商会長はあまりにもイレギュラーとしか言えない二人の十歳児に対して、末恐ろしいものを感じながら言葉を綴るのだった。
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