宣戦布告

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ」


 結局、何もかもを流れに任せて頷いてしまった。

 あれよこれよという間に僕は国王陛下より反乱軍と戦うようにという拝命書を頂き、何時でも出陣できるように前準備も完璧である。


「……あぁ」


 この後は王都で傭兵探しと武具を売ってくれる商人との会談である。

 ちなみに、もうすでに傭兵との交渉の場も、商人との交渉の場も、既に前もってセッティングされていた。

 これで、僕が受け入れなかったらどうなっていただろうか?

 

「……ルノ様」


 既に騎士たちが退出した後の部屋で再び車いすへと座りなおして言葉を漏らしていた僕へとリノが声をかけてくる。


「両足は、どのようにして?」


 彼女が告げたのは既に治っている僕の両足に関する疑問だった。


「言っておくけど、あの場ではリノに負けたけど、それは多くのギャラリーが居て、なおかつ至近距離での、しかも僕は罪人という立場であるという多くの不利的要因があったからだ。もし、ここでリノが僕に牙を剥くと言うならまた違った結果になるだろうよ」


 車いすから平然と立ち上がった僕はリノに向けてそう宣言する。

 事実、そこまでリノと僕の戦力差はないだろう。


「今回は、何もかもがリノの手の平の上だったけど……常に、僕はリノに負けるつもりはないよ。次に出し抜くのは僕だ」


「……ふふふ」

 

 そんな僕の宣戦布告とも言えるような言葉に対してリノは余裕ともとれる態度で笑みを漏らす。


「確かに、そうでしょう……ルノ様であれば私に抗うこともできるやもしれません。ですが、それはあり得ません。元より私の方が能力は上であり、なおかつ私にはこれまでのアドバンテージがあります」


「それはどうかな?」


 確かにその通り。

 だが、それでも僕はリノに対して負けているとは思っていない。

 

「リノ」


「はい、何でしょう?」


 日本にはこんな言葉があるのだ、惚れた弱みという素晴らしい言葉が。


「これから、ずっと僕のことだけを見続けろよ……お前のこと、僕は自分の手から離すつもりないから。リノは僕の隣にだけずっと立っていろ」


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええ!?」


 平然とした態度で立っていたリノを強引に壁の方へと追いやってそのまま壁ドンを一つ。


「そ、それでもぉ……わ、私は色々とぉ」


 僕から壁ドンされたリノはこれ以上ないほどに頬を赤く染めながらしどろもどろとした態度で口を開く。


「何?リノは僕以外のことをそのきれいな瞳に映したいの?」


「はふっ、はふっ、はふっ、あぅあぅあぅ」


 だが、それでも僕の猛攻は止まらない。

 壁ドンした状態で顎クイまで使用する。

 ちなみに、この時ちょっとだけ魔法を使って身長を盛っているのは内緒である。

 何処かの猫型ロボットのように少しだけ地面から浮いていたりなんかしないんだからね!


「ふふふ……流石にもうリノが僕を異性として好いているのはわかるよ」


 ひとしきり翻弄した僕は彼女の元から離れて口を開く。


「だけど、別に僕はリノを異性として好いているわけじゃない……それは、さ。リノだってわかっているだろう?」


「……ッ」


「なればこれは勝負だ。僕はリノを自分の手元から離さない。今回のように丸め込まれるのは嫌だからね。常に己の手元にリノを置いて、君を監視し続けよう。その間に僕も僕で自分の勢力を拡大し、お前を簡単に跳ねのけられるようにしてやるさ」


 これでも僕は前世の記憶のおかげで神童扱いされているんだぞ?

 いくら押され弱いクソ雑魚だとしても僕が常に彼女の後塵を拝すると思ったら大間違いだ。

 

「もう理解できただろう?僕はリノのことが好きじゃない。だから、手元に置いて飼い殺しになるんだ」


「……私のことが、好きじゃない」


 既にリノは顔を伏せてしまっており、その表情は掴めない。

 だが、自分が間違えていないという確信をもって言葉を続ける。


「だから、さ。逆に噛み殺してみせろ。僕を惚れさせてみせろ。僕とリノの勝負。僕はリノを突き放すべく手元で君を飼い殺しに、リノは僕を自分の物とするべく懐に入りこむのだ。簡単だろう?」


 僕のリノに対する言葉はどこまでも挑発的なものだった。

 それに対して、リノは、

 

「……えぇ、良いでしょう。確かに、私は慢心していました。それは、事実でしょう。なればこそ、断言します。ルノ様を惚れさせ、私なしに生きれないようにしてあげます」


 一歩。

 一度は離れたこちらへとリノは踏み込んで己のすぐ目の前へと立ち、その両手で僕の顔を抱えこんで強引に自分と視線を合わせてくる。


「……ッ」


 僕よりもリノの方が身長が高いこともあって彼女に見下ろされるような形となる。

 リノの一切ハイライトのない瞳に見ろされる僕は思わず恐怖心を抱いてしまう。


「大好きです、ルノ様」


 そんな僕に対してリノは、唇と唇を合わせるだけの軽いキスを強引に交わせながら愛の言葉を口にするのだった。

 

 

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