諦観

 さて、この場面を崩す手はあるだろうか?

 

「……」


 普通に処罰を受け入れて兵をあげるのは嫌だ。

 兵士をあげて反乱軍もとい隣国との戦乱に参加するとか、僕の世界中を見て回るという夢を叶えにくくなってしまう。

 

 そして、そもそもとしてあまり父上と戦いたくはない。

 別に父上自身も僕に顔を見せていないし、父親らしいことなどされたことないので……肉親としての愛情などもうないと言っていいだろう。

 だが、それでも父上は血のつながった家族であるし、ある程度顔を突き合わせてもいる。

 既に人を殺す覚悟は決めているが、その初戦が家族である父上は流石に抵抗感がある。


「……」


 もう詰んでいるような状況ではあるが、それでも僕は何とか挽回することを望みたい……リノを相手に?無理じゃね?


「ルノ様」


「んっ?」


 戦う前から既に諦めかけながら思考を回していた僕の名を目の前にいる騎士団長が呼ぶ。


「ご自身のお父上と矛を争うことになったそのご不幸、深く憂慮いたします。ですが、臣下一同からお願い申し上げます。我らが王となり、我らを率いて頂きたいのです。我儘なことこの上ないのですが、愛すべき我らが領地を捨てた当主を許せないのでございます。どうか……我らに、裏切り者への鉄槌を喰らわせる機会をお与えください……ッ!」


 そして、そのまま騎士団長が片膝をついて頭を垂れながら口を開く。


「……ッ」


 それだけではない。

 この場にいる騎士たちすべてが洗練された動きで僕へと頭を垂れてくる。


「「「どうか……」」」

 

 そして、練習したのかとツッコミを入れたいほどに揃った言葉を上げる。

 彼らから感じるの期待。

 そして、一緒に裏切り者に処罰を与えよう。

 与えなければならないという圧であった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」


 僕は車いすの上で悶え苦しみ、頭を掻きむしながら声を上げる。

 個人で国の武を超えることもあるような世界において、上に立つ者が軟弱な姿をさらすことなど許されるはずがなく、ここで引けば


「……はぁー」

 

 そういうことにしておこう。


「我ら何ぞや」


「……えっ?」


 そして、僕は車いすから立ち上がって声を上げる。

 僕が上げる言葉はラステラ家が戦地に赴く際にかける言葉である。


「「「我ら、ラステラの剣!万物を打ち砕く剣なり!」」」


「我ら何ぞや」


「「「我ら、ラステラの剣!万物を打ち砕く剣なり!」」」


「よろしい、ならば行こう。敵を打ち砕くために」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 言葉が終わると共に大きな歓声を上げる騎士たちを前に、僕は諦観の意を心の中で浮かべるのであった。

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