道中

 丁寧な作りとなっている建物に、床に敷かれている高級感の漂う絨毯、廊下に光を与える壁に幾つも並ぶ大きな鏡に、その場を彩る絵や壺などと言った芸術品。

 まさに王宮とでもいうべき威厳さを持った廊下を車いすに乗っている僕はリノに押される形で前へ前へと進んでいく。


「ふへへ、るーのぉ」


 そんな中で車いすを押すリノが僕の名を呼ぶ。


「なぁーに?」

 

「何でもなぁーい、呼んでみただけぇ」


「おー、そうかそうか」


 僕はいつぞやでも交わしたことのあるような気がする会話を交わしながら進んでいく。


「るのぉ、好きだよぉ?」


 そして、次に告げられるのは愛の言葉である。

 変わらず明るいリノの声。

 だが、その声の深層には底知れない粘っこい愛情とこちらへの圧が加わっているような気がした。


「まぁ、好きだよ」


 そんな言葉に対して僕は彼女とは対照的に軽い口調で愛を語る。


「それは異性としてぇ?それとも家族としてぇ?」


「僕たちは婚約者。もう家族のようなものだろう?」


 どう考えても、どう自分を偽っても僕がリノに対して抱いているのは異性としてのものではない。

 妹に向けるような家族としての愛情と言える。

 というか、精神年齢で言えば二十歳を超えている僕に三歳であったリノも、十歳であるリノも、異性として愛せるわけがない。

 普通に考えて、守備範囲外に決まっているだろう。


「……」


 それでも、ここで愛を語らぬも。

 されとて、嘘をつかぬも駄目だろう。


「……そっかぁー」


 嘘は一切ついてない。

 その上でリノが喜ぶ答えを用意した。


「だよねぇ、私たちは仲の良い婚約者だものねぇ。ふへへへへ、そうだねぇ。うん、良いよぉ……今は、ねぇ?」


 それに対するリノの返答は随分と含みのこもったものであった。

 あー、やっぱりだけど……リノはわかっているんだよなぁ。

 狂っているふりしてちゃんと正常だ。

 

 少し、愛が暴走してしまっているようなところがあるにせよ、彼女の冷静な部分はあの玉座の間においても、僕が洗脳されていないことを知っていただろうし、今も僕の答えの裏もわかっているだろう。

 だが、それについてリノが語ることはないだろう……うーん、婚約者として、僕は彼女を愛せるのかねぇ?いや、それがいつになるのか、だな。


「それで?今、僕たちは何処に向かっているの?」


 そんなことを考えながら僕は話を切り返るべく口を開く。


「んー、それはねぇ……いや、見てもらった方が早いかな。もう着いたし」


 僕の疑問に答えようとしたリノはそれに答える代わりに足を止めて一つの扉の前に立つのだった。

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