退院

 先ほどまでの冷たい雰囲気は何処へやら。


「もう大丈夫だよ?両足の感覚は未だにないけど」


「それなら良かった!」


 リノは心底明るい態度で僕とセーノさんの前に姿を見せていた。


「いや、誰よ」


 思わず叔母であるセーノさんがツッコむほどの変貌ぶりである。

 敬語を使って淡々と僕を追い詰めていた人間と、今目の前で満面の笑みを浮かべている天使が同一人物だとはとてもじゃないけど思えない。


「私は私だよ……そんなことよりルノ、もう大丈夫なら医務室から出ても問題なさそう?」


「別に平気よ。元より医療魔法だって自分で出来るし」


 リノとの激闘後、慌てて駆け寄ってきた人たちに流される形で医務室の方へとやってきた僕ではあるが、医療魔法くらい自分でも使える。

 別にあの場に転がされたままでも時間をかければ呪いまで込められている両足を自分で治すことだってできた。


「まぁ、両足はまだ無理だから……その車いすにしばらくお世話になるけど」


 僕は浮遊魔法を発動させ、そのままリノが持ってきていた車いすへと腰掛ける。


「い、いやいや!?駄目よ!」


 そんな僕とリノのやり取りを端から見ていたセーノさんが口を挟んでくる。


「まだ安静にしていないと!」


「大丈夫ですよ?」

 

 それに対して答えるのは僕だ。


「これくらいの傷でへこたれるほど弱くはないですよ、僕ってば。治癒魔法だってセーノさん以上な自信があります。ですから、そんな心配しなくてください」


「え、えぇ……?」


 僕の言葉に対してセーノさんは困惑しながら言葉を漏らす。


「ルノもこう言っていることだし、もう良いよね?セーノ叔母さん」


「……はぁー。まぁ、あのリノとまともに戦闘出来ていたルノくんも十分化け物ってことね。良いわ、認めてあげる。それでも安静にね?」


「わかっていますよ。しばらく大人しくしていますよ」


 僕はセーノさんの言葉に頷く。

 一先ずは、両足を治さないと安静せずに暴れるなんていう次元ではない。


「それじゃあ、失礼します」


「よし!いこー、ルノぉ!」


「そうだね、車いすの運転お願い」


「うん!任せて!」


 僕は自分の隣に立つリノの言葉に頷き、自分が腰掛けている車いすの操縦を任せる。


「……リノ、とりあえず君の側に立ってくれるその子を大切にね」


 そんな僕たちを見守るセーノさんは最後にリノの方へと声をかける。


「もちろん!私はルノの婚約者だからね、いつだってルノが第一だよ?……わかっているよ」


 そして、リノはそれに対して笑顔で答えながら僕の乗っている車いすを押して医務室の外へと出るのだった。

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