一矢
勝てる気がまるでしない。
それでも、諦めずに僕が魔法を発動するべく魔力を練り上げ、世界へと干渉するための術式を顕現させる───その次の瞬間にはリノが僕の目の前に立っていた。
「終わりです」
そして、何の無駄のない洗練された動きによって振り降ろされる。
回避なんて不可能。
常時、いきなり斬りかかられてもいいよう、いつでも発動出来るように準備してある結界魔法も、短距離転移魔法も、初撃の段階で使い果たしている。
僕の持つ手札は既に切れている。
「ぐっ」
故に、その一撃を回避できたのはまさしく奇跡とか言えなかった。
たまたま前世で祖父から教わっていた古代武術のイロハに従ってたまたま体が動いたに過ぎない。
「えっ……?」
だが、それでもあまりにも十分だった。
自然と動いた僕の身体がリノの懐へともぐりこんだことで、剣から拳の距離へと間合いが変わる。
「……ッ」
そのタイミングで放たれた僕の拳はリノの体を宙へと浮かせ、リノの剣は空を切った。
たまたま僕の身体が動いてくれたことによって出来た僅かな時間。
リノが一撃を空振り、その体が宙へと浮かばせたことで出来上がった時間によって、僕の魔法が完成する。
「吠えろ、雷狼」
地から足が離れるリノの体へと雷によって作られし巨大な狼が噛みつき、そのまま地面へと叩きつける。
「踊れ、四龍」
リノがその陽剣によって雷狼を消し飛ばした頃には既に僕は彼女から全力で距離を取り、次の魔法の発動の準備を完了させているところであった。
態勢を整えたリノへと炎、水、雷、土の属性をそれぞれ持った四つの龍が走る。
「……煌け、陽剣」
だが、その龍はリノへと触れる前に更に輝きを増した陽剣によって簡単に消滅させられる……あれでも、下手な小隊くらいは壊滅させられる上級魔法だぞ。
精鋭中の精鋭と言える魔法使いでなければ使えない上級魔法を羽虫でも払うかのような一振りで無に帰すなよ。
「ふぅー」
僕は理不尽に思いながらも己の中でうねる魔力によって魔法を発動させるをことを辞めない。
動きを止めている暇などない。
だって、ほら……もう既にリノは僕との距離を詰めるべく足に力を入れているところなのだから。
「黄泉沼」
瞬き一つ。
恐らくはそれだけの差でリノが地面を蹴って推進力を得るよりも僕が魔法を発動させるタイミングの方が速かった。
リノが蹴ったはずの王城における床は僕の魔法によって底なしの沼へと早変わりしており、彼女の足に溜まっていた力は完全に受け流されてしまう。
「……ッ」
動きが止まってしまったリノ。
「呑み込め、魔導球」
そんな彼女へと僕は渾身の魔法を飛ばすのだった。
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