実力
公の場で王女でしかないリノが罪人を裁くこの場において発言するどころか、あまつさえ斬りかかるという暴挙。
「マジでこの二年の間に何したの!?」
だが、それに対して周りの人間はリノを止めるどころか、その行動を支援するかのように動いている。
護衛としてこの場に詰めていた多くの騎士たちは建物と貴族が傷つかないように結界を貼り、国王陛下は僕に向けて手の平を合わせて祈るだけで、リノを止めようとはしない……マジで、この二年間の間に国を掌握しすぎだろ!
十歳の独裁者が知らぬ間に誕生していた……ッ。
「……ぐっ」
一切ハイライトが浮かんでいない瞳で僕のことを見据えながら振り下ろしてきた彼女に手にある陽炎によって作られた剣と僕の結界が激しくぶつかり合う。
「おっも……」
神に愛されし、太陽の巫女。
陽炎の王女というのがゲームにおけるリノの公式設定であり、彼女はこの世界に四本しかない特殊な魔剣のうちが一本である陽剣を生まれながらに有している。
つまり、何を言いたいかというと。
「無理ッ!?」
リノはめちゃくちゃ強いということである。
炎を纏い、世界最高峰の魔剣たる陽剣を自由自在に生まれながらに高い身体能力で振るってくる彼女は作中においても
「いやぁぁぁぁぁあああああああああああ!?」
それに対する僕は中ボス。
一応、主人公たち陣営の前に立ちふさがり、多くの部下を率いながら魔法を操り、痛手を負わせはしているキャラであるが、所詮は中ボス。
ヒロインとして登場し、最強キャラランキングでも常に最上位を取り続ける怪物が相手ではあまりにも役不足であった。
「おぉぉ!?」
結界を破られるも、短距離転移魔法で彼女の元から慌てて逃げおおせた僕はそのまま容赦なくリノへと攻撃魔法を叩きつけるのだが、それは簡単に彼女の身を守る炎の鎧によって防がれてしまう。
「や、やりにくい……」
作中を考えれば僕は明らかに役者違いである。
だが、この世界は現実であり、また僕も生まれたときより研鑽を詰んできた一人の神童である。
その実力は彼女に劣るものではないと自負しているが……問題は立地である。
そもそもとして僕は遠距離から魔法を乱射するタイプで、近距離戦は御免被りたい側の人間であるし、何よりもこの場は王城で多くの貴族が観客としている場なのだ。
こんなところで城を吹き飛ばすような大魔法は使えない。
あまつさえ、こちらは罪人なのだから。
己が最も得意とする大魔法が使えるわけがない。
「……無理じゃね?これ」
向こうが得意とする場で僕は飛車角落ち。
もしかするとだが、詰んでいるのではないだろうか?
「……私に、攻撃まで向けて。あぁ、そこまで洗脳が深いのですね」
それに対して、リノは情けを与えるような状態ではなかった。
「じ、自衛として許してほしいな」
「わかっていますよ。ルノ様……洗脳させているだけですものね。大丈夫です。私は洗脳されての行動に怒りを覚えるほど私は短気ではないですよ?」
「ふっ……」
めっちゃキレているやん、めちゃくちゃ短気じゃん!
そんなツッコミを飲み込みながら僕はリノを前にして冷や汗を垂らすのだった。
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