「聞き間違えたかな?あ、あれ……?今、罰を受け入れるって言った?」


 僕の言葉を聞いたリノは平然とした態度を保とうとしたまま、それでも隠しきれなかった動揺を見せながら恐る恐ると言った形で疑問の声を上げる。


「いや、言葉通りの意味だけど……身内の不始末だからね。甘んじて受け入れるよ。死刑まではないだろうから」


 それに対して僕はなんで、彼女がそこまで動揺を見せているのか


「た、確かにそうだけど……それでも、基本的に反乱者を裁く際の連座は国外追放となるのが常なんだよ?」


 そうなのだ。

 僕はリノの言葉に内心で深く頷く。

 

 この国においては親族などが反乱を起こした場合、一切罪への関与がなかった犯罪者は国外追放などの憂き目にあうことが常となっている。

 その理由は謎だ……普通に考えて、国外追放にする意味があると思えない。

 特に、今回の父上のように他国と通じての行動だった場合、明らかにそいつは敵国に流れ着いて、敵となるだろうに……。

 何がしたいのだろうね?一度、ちゃんと敵にしてから必ず息の根を止めてやるといいう強い意思なのだろうか。


 その理由はイマイチわからないが、それでも殺されることがないのは確かである。

 だから、旧知の中である僕がリノの前で無残に殺されることはひとまずないし、彼女がショックを受ける理由がイマイチわからない。


「それは当然わかっているよ。殺されることがないだけで儲けものだよ」


 国の方針に対しては不思議しかないが、実際にそうなることが決まっているのだから、僕としては不本意などない。

 むしろ、ありがたいくらいだ。

 ゆえに、僕はリノの疑問に対して笑みで返す。


「……嘘だ」

 

 だが、それに対してリノは呆然とした態度のまま一言だけを漏らす。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


 そして、そのまま壊れたロボットのようにぶつぶつと同じ言葉だけを繰り返して現実を拒絶するかのように首を振り続ける。


「え、いや……その、どうしたの?」


 そんな彼女に対して僕は困惑しながらも声を上げる。


「は、ははは……はは、ははは」


 だが、それに対してリノは僕の言葉に答えることなく乾いた笑みを浮かべてその視線を地面の方へと向ける。


「これは夢……夢、そうじゃないとありえないのです。だって、ルノが……ルノが……ルノが、私のルノが……」


 そして、そのままリノはふらふらとした様子で僕の元から去っていく。


「こ、この二年間の間で何があったの?」


 二年前、僕の前で天真爛漫な様子を見せていたリノの突然の奇行。

 それに対して僕はこれ以上ないほどに困惑しながら己が閉じ込められている牢屋のある地下から消えていく彼女を見送るのだった。

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