知らせ
軽い足取りで文官に言われた通り会議室へとやってきた僕を待っていたのは完全武装の騎士たちであった。
全員が我が家に仕えるものたちであり、僕は彼らすべてのことをよく知っている。
「ルノ様……少し、よろしいでしょうか?」
我が家に仕える騎士の長。
騎士団長である男が僕の前へと一歩踏みだして口を開く。
「構わないよ?」
それに対して、僕は手枷をつけやすいように両手を組んで前へと差し出す。
「……既に、わかっておられるのですか?」
そんな僕に対して騎士団長は動揺を無理やり押さえつけたかのような仕草を見せながら僕へと疑問の声を投げかけてくる。
「さぁねぇ?それよりもほら、君は君の職務を果たすべきではなくて?」
それに対する僕はどこ吹く風である。
「……ッ。その、通りですが……ッ」
僕に付けるであろう手枷をその手に持つ騎士団長の瞳には動揺の色が浮かび、こちらへと一歩、踏み込んでこない。
「ルノ様。貴方のお父上が敵国と内通していることが判明いたしました」
そんな騎士団長の代わりにうちの騎士団の二番手、副騎士団長が前へと出てくる。
「それに伴って、一時的にルノ様の身柄を拘束させてもらいます」
「あい、わかった」
そして、騎士団長から奪い取った手枷を僕の手へと嵌める。
「それじゃあ、王都に連行して行ってくれ。どうせ、呼ばれているだろう?僕の輸送は副団長が行ってくれるのかね?」
「はい、不肖ながら……私とその部下で担当させてもらいます」
「ならば安心だ……任せたよ」
「……えぇ、それでは我らと共にお越しください」
「うん」
僕は自分を誘導する副騎士団長の言葉に頷いて入ってきたばかりの会議室から退出するべく足を前へと出す。
「最後にお聞かせください……すべてを承知の上でいらっしゃったのですか?」
そんな僕へと、これまで辛そうに顔を伏せていた騎士団長が疑問の声をかけてくる。
「自分の父上が不穏であるのには端から気づいていた……何かあって、こうして捕らえられることになるかなぁーっとは思っていたよ」
自分の父親が反乱を起こすことはゲーム知識によって生まれたときから知っていたと言える。
ゲーム本編における僕は父上の手助けもあって領地を脱出し、反乱を起こした父上と合流することになるのだが、今を生きる僕はそんなことするつもりはない。
「死刑されないことを願っているさ」
「……それは、あり得ません故。ご安心ください」
「なら、良かった」
父上が反乱を起こしたともなれば連座で僕も処罰されることは不可避。
それでも、連座によって処罰されたとしてもいいとこ国外追放であり、処刑を行うことはない。
別に絶対王政という訳でもなく、貴族権が未だ大きいこの世界で、おいそれと直接犯罪に手を染めたわけではない貴族の人間を殺すことは珍しい。
「じゃあ、連行されている間。僕は追放された後のことでも妄想しようかねぇ……しょぼくれてくれるなよ?我らが団長よ。僕は僕で自分の好きなように生きて幸せを掴むさ。心配も、後悔も要らぬ。領地のことは任せた」
「……は、ハッ!」
「良い子だ」
僕の言葉に騎士団長が体を震わせながら敬礼で頷いたのを見て、僕は満足げに笑みを浮かべて、今度こそ会議室を後にするのだった。
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