衝撃
私は、何故生まれてきてしまったのだろうか───?
「……」
そんな疑問を抱き、ただ目の前にある現実の敵へと冷たい視線を送り、現実を見捨てる。
ここで、私がどのような扱いを受けたとしても、もうどうでもいい……あぁ、でも……ルノ様は。唯一私に笑いかけてくれたルノ様は……。
私のせいで巻き込まれてしまったルノ様は今、一体どこにおられるのだろうか。
彼が、どのような扱いを受けているかを考えるだけで私は、私の瞳は現実を写すのを拒んでしま、
「にょ」
私の瞳にルノ様の姿が映る。
突然、天井からひょっこりと私の前に現れたルノ様を。
私の現実を写すことを拒んだ瞳にルノ様の姿が映る。
あっ、なんだ……夢か。
「行くよっ!」
思考が完全に停止してしまった私をよそにルノ様は拘束されていた私を一瞬で解放し、そのまま抱きしめて掴む。
「あふっ」
ルノ様に抱き着かれ、彼に抱えられる形になってしまった私の口から変な声が漏れる。
「んだっ!?あの餓鬼!」
「し、侵入者か!何者だ!……って、あれは!」
「な、なんだ!?」
その間にもこの場にいた男たちはルノ様に気づき、各々声を上げている。
「我が領地内での無礼はご法度だよ!後、いくら欲情していようが三歳の餓鬼に欲情するのは不味いやろが!」
そして、私よりも少しばかり小柄なルノ様はその小さな体を使って私をぎゅーっと抱きしめながら己へと魔の手を伸ばそうとしていた男たちへと言葉を投げ捨て、大量の魔法を撃ちこんでいく。
「なっ!?ば、馬鹿な!?」
「まだ三歳児だぞ!?」
流れるような、一切の無駄がない魔法の連打に誰もが驚き、固まっている中でルノ様はさっさと私を引き上げて、彼が私の前で来たであろう天井のダクトの中へと入っていく。
「逃げるよ!」
そして、そのままルノ様は私たちが進むにはちょうどいい広めのダクトの中を進んでいく。
「ま、待ってください!?」
彼と手を繋ぎ、引きずられる形でダクトの中を進む私は声を上げる。
「わ、私なんです!彼らの狙いは!ルノ様は関係なく、彼らはただ私を誘拐しようとしているんです!」
ルノ様が生きていることがわかったのだ。
だったら、ここはルノ様に私を見捨ててもらって、彼にだけは逃げてもらうのだ。
私は生きてちゃいけない悪魔で、人とは思えぬほどの才覚があるのだ……ルノ様が逃げるまでの足止めをすることくらい、出来る。
「まったくだよね!?三歳児であるリノナーラを誘拐するとか許せないよね!」
そんな私の訴えに対して、ルノ様は真っ直ぐな怒りをぶつける。
私にではなく、誘拐犯へと。
「……ぁ」
理解する……理解してしまう。
ルノ様は私に対して怒ってなどいない。ただ、誘拐を行った男たちに怒っているのだと。
私を悪魔だと侮蔑することも、悪魔だと恐れることも、ただ、何処にでもいる一人の女の子として見て、ただその瞳に私をうつしてくれているのだ。
「でも、安心して!君には僕がついているから!ど、どこまで役に立てるかはわからないけどね!?」
世界に色が宿る。
きらきらと輝きだすのはあまりにも突然で、あまりにも不意打ちだった。
「はっ、はぅ……あっわ!?」
ずっと独りぼっちだった私の世界、目に映る物すべてが灰色で、何と触れあって何をしても何も感じなかった、そんなつまらない私の世界。
そんな世界の中でルノ様だけが色づき、ルノ様に握られている手から暖かな体温が伝わり、ゆらゆらと揺れるルノ様のアホ毛から彼の芳醇な匂いが感じられる。
あぁ、痛い……熱い。
私の鼓動がこれ以上ないほどに高まり、頬が硬直していくのを感じる。
ルノ様という存在が、私に……刻まれていく。
「……あぁ」
───私は、何故生まれきたのか。
その答えが今、わかった。
「……好き」
それは、ルノと生涯を共とするためだったのだ。
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