貴族の子息

 既に僕とリノナーラを誘拐した組織の拠点の構造は完璧に把握している。

 ここからの脱出もそこまで難しい話ではない。

 

「リノナーラ?」


 そんなことを考える中で僕はようやく自分へと抱き着いて状態のまま一切動くことはなく、己の後頭部へと鼻を擦りつけているリノナーラの姿に気づき、彼女の名前を呼ぶ。

 いつまで抱き着いているの?という疑問の意を込めて。


「……ルノぉ」


 そんな僕の疑問の声に対してリノナーラは決して僕の方から離れようとはせず、ただがむしゃらにしがみついてきている。


「……」

 

 は、はわわわわわわわわわ、可愛いぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!

 なんだ!?この天使は……まるで、前世僕に懐いてくれていた二歳の姪っ子のようではないか!なんと、なんと可愛いことか。

 そうだ、この子がどれだけ賢く見えていたとしてもこの子はまだ三歳で、小さな女の子なのだ。


「大丈夫だよ、リノ。君のことは必ず守るから」


「ふぇ!?あっ、う、うん……」


 この子のことだけは必ず守ってみせる、お兄ちゃんとして!

 彼女よりも長きを生きる一人の男として……まぁ、肉体年齢としては僕も変わらないけど。


「そう、大丈夫だから」


 僕は優しくリノのことを抱きしめ、その頭を優しく撫でて上げる。

 まるで彼女の実の両親かのような気持ちで!


「はぅ……はぅはぅあわぁぁぁぁぁ」


 僕に撫でられているリノは気持ちよさそうな表情を浮かべ、口元から少しだけ涎を垂らしている……うん、顔つき的には落ち込んでいるようには見えない。

 もう大丈夫かな?


「とりあえず、ここから逃げようか。既に逃走経路は考えているから大丈夫、安心して」


「う、うん」


 僕は自分の元にしがみついているリノの体をやんわりと遠ざけて

 流石にまだ三歳児でしかない僕では彼女にしがみつかれたままだとまともに動くことも出来ない。


「……」


 僕は離れてくれたリノと共に行動を開始し、地上を目指して進んでいく。


「こっちだ!いたぞ!餓鬼どもだぁ!」


 地下に存在していた誘拐犯たちの拠点の中でただ一つある出入口。

 そこへとやってきた僕とリノであるが、そこで出待ちしていた誘拐犯たちの一味にやっぱり見つかってしまう。


「クソっ!?逃がさねぇぞ!」


「油断するなよ!そこの三歳児は普通にやべぇ!」


「ここで逃がすなよォ!」


 僕たちを再び捕らえるべく誘拐犯たちが警戒しながらこちらの方へと襲い掛かるべく近づいてくる。


「来いっ!お前らァ!」


 だが、それよりも先に僕が叫び、それと共に出入り口の方から多くの騎士たちが一挙として押し寄せてくる。


「ご無事ですか!ルノ様!」


「あぁ、見てのとおりね……あとは任せたよ」


「ハッ!」


 中の方へと押し寄せてきた騎士たちに多くの誘拐犯の一味が捉えられていく中で僕は油断しきった態度で言葉を話す。


「まぁまぁ、互いに少しは落ち着きましょうよぉ?ここは互いに穏便に、ねぇ?」


 だが、それに対してこの場へとようやくになって姿を見せた誘拐犯の主犯格の男も僕と同様に油断しきった態度で言葉を話していた。


「やれ」


 僕はそんな彼を無視して命令を下していく。


「まぁまぁ、上の方からも……その子よりも上。当主の方から何かあるでしょう?」


「はて?何を言っているのかわかりませぬなぁ。我々はただ、犯罪者を処断するだけですとも」


「……ぁ?」


「ばぁーか、既に自分のお膝元は攻略済みだよ」


 騎士の一人の発言に愕然とした表情を浮かべる誘拐犯の主犯格である男に僕は侮蔑の言葉を投げかけてから背を向ける。

 サボってばかりではあるが、それでもちゃんとやるべきことはやっているのだ。


「それじゃあ、僕はリノと帰っているから、あとはよろしく」


「えぇ、お任せくだされ」


 そして、あとのことは頼もしい自分の騎士たちに任せて僕はリノと共に地上の方へと帰還するのだった。

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