牢屋
暗く狭い空間。
どこからか垂れてくる水滴の音を前にして僕はようやくになって意識を浮上させていく。
それでも僕は決して意識が戻ったような素振りは見せないままで静かに辺りを確認していく……自分の体を縛るのは手の枷と足の枷、猿轡か。
近くに人の気配はなく、今いる場所は本当に狭い空間の中、地面に転がされている僕は寝返りも出来ないだろう。
明かりもなく、ほとんど何もわからない。
「……」
これは、これはこれは……非常に不味いなぁ。
そも誘拐事件ってだけでも最悪なのに、路地裏とか人目につかない場所でなく、人通りの多くて目撃者のある場所での誘拐事件。
こんなの滅多な自信でもない限り行わない……つまり、敵としてはそれだけの存在であるわけだ。
「……んっ」
それでも、動かなくては何も変わらない。
僕は十代前半の体を元の三歳児へと戻すことで己を縛るものからするりと抜け、自由を取り戻す。
「脱出は……簡単そうだな。普通に蓋しているだけか」
そして、僕は魔法を発動して自分の上にある巨大な板版をどかしていく。
「っとと、重すぎだよ」
何とか上にあった蓋をどかした僕は解放される。
出てきた場所は牢屋の中であり、先ほどまで僕がいたのは牢屋の隅に置かれている石づくりの四角い箱であった。
閉じ込められていたところから再び閉じ込めらえた場所に出てきてしまったぼくだが、この牢屋の鉄格子であれば僕は普通に通れそうだ。
「ん……っしょ」
三歳という小さな体を活用して鉄格子を抜けて牢屋から出る。
「あまり大規模な魔法は使いたくないんだけど」
牢屋から出てきた僕は出来るだけ他人から魔法を感知されないように細心の注意を払いながら魔法を発動させる。
自分は発動させた魔法の効果によってどんどん僕はこの空間の構造を把握していく。
「上か」
自分が居るのは地下深く、周りに人はなし。
その代わりに多くの人がいるのは自分の遥か上であり、そこにリノナーラの気配も感じることが出来る。
「……行くか」
ここでただ一人だけで逃げだすという選択肢はない。
そんなことをしてしまえば、僕の心にも後悔が残るし、何よりも我が家の名誉が大変なことになってしまう。最悪の場合、うちの父親が反乱を起こせないような状況になってしまうかもしれない。
貴族家から追放され、自由に世界を見て回ることを目標とする僕からしてみれば非常に都合が悪い。
僕はリノナーラがいるであろう上の方へと向かうために己の気配を消しながら行動を開始するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます