デート

 いきなり愛が爆発したなどというリノナーラのお願い。

 結局、驚きながらもそれに頷いた僕は彼女と共に街の方へと出てきていた。

 目的はデートのためである。


「るーくん!何処に行く?」


「……お、おぉう」

 

 そんな僕たちであるが……デートとかの話よりも前に今、自分の前にいるリノナーラに僕はただただ困惑していた。

 

 当然の話であるとも言えるが、街へと気軽に領主の子供と王女が出るわけにもいかない。

 ということで、僕もリノナーラも自分たちが十代前半の男女に見えるよう変装し、自分たちの呼び名と言葉遣いも変化させていた。


「す、少しばかり急ぎですよ?りーちゃん。そこまで急がなくとも逃げませんよ」


「だとしても!私のこのワクワクは止められないだよ!?るーくん!」


 リノナーラは僕のことをるーくんと呼び、僕はリノナーラのことをりーちゃんと呼ぶ。

 そして、いつもとは違って僕が敬語を使い、リノナーラがため口を使う。

 そういうことになったわけであるが、それでも僕はリノナーラのあまりの変わり身に少しばかりついていけていなかった。

 ……ちょっとキャラが変わりすぎだと思うんだよね。


「るーくん。そんなつれない態度を取らないで?いつもと違う私も可愛いでしょ?」


 そんな風に困惑している僕との距離を詰めてリノナーラは耳元で囁いてくる。


「は、はい……わかっていますよ」


 耳元で声をかけてくるリノナーラの言葉に頷く……ちょっとそういうのはちゃんとドキドキしてくるからやめて欲しいよね。


「当然、リノナーラの可愛さはわかっていますよ」


「それなら良いよ!まぁ、言うまでもなかったかな?」


 僕の言葉を聞いたリノナーラはテンション高く笑みを見せて僕の先を進んでいく。


「にしし……じゃあ、今日はどこに行こうか?」


「……あー、どうしましょうか?」


 デート。

 それは別に前世でそこそこ経験しているが、この異世界なら経験はない。

 この世界でデートをするのであればどこに行くべきなのか、その引き出しが僕にはなかった……クソ、と思うとやっぱり前世の世界は恵まれていたよなぁ。

 いくらでも娯楽に溢れ、やろうと思えばどれだけ多くの時間も潰すことが出来た。


「まぁ、適当に見て回れば良いよね!」


「……そうしましょうか」


 エスコートを任そうとしたは良いけど、出来そうになさそうなことを察してくれたリノナーラがエスコートしてくれる。

 そんな現状を前に僕は情けなくも感じながら、大人しく背伸びはせずに彼女と共に歩くのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る