二人
元より、リノナーラと婚約するのはわかっていた。
ゲームでも婚約者の関係になっていたし、基本的に幼年での婚約話など大人の事情で決まるものであり、これは避けられないものだという風に考えていた。
でも、まさかこんなにも早く、不意打ちのような形になるとは思っていなかった。
「ルノ様。そちらのペンを取ってくれないでしょうか?」
だからこそ、僕はいまいちリノナーラとの距離感を掴めていなかった。
「ん?あ、うん……良いよ」
僕は彼女の言葉に頷いて自分の隣にあったペンを渡す。
今、僕たち二人はともに書類作業の最中であった。
将来のための勉強として重要度の低い書類作業をうちの家の文官たちから任されているのだ。
ちなみにリノナーラは今いるラステラ家の領地から王都には帰る気ないらしい。
「……」
「……」
共に黙々と事務作業を行う僕たちの間に会話は特にない。
「……ねぇ」
そんな沈黙を破るかのように僕はゆっくりと口を開く。
「はい、なんでしょうか?」
「僕のこと、呼び捨てにしてもらって構わないよ?敬語だって要らないよ……というか、立場的にはリノナーラの方が上なのに僕がずっとため口で敬称無しなの違和感あったんだよねぇ……最初、その名を知らずにいたこともあって使っちゃったラフな言葉を今になって変えるのも何か違うような気がして」
「……よろしいので?」
「うん、良いに決まっているよ。僕とリノナーラは共に一生を過ごす夫婦になる婚約者なんだから。僕は一緒に過ごす人とは対等でありたい。それが共に生涯を歩いていく間柄なのであればなおさらね。僕はリノナーラに気楽に接してほしいんだけど……ダメかな?」
この関係がどこまで続くかわからない。
というより、ここで僕がどれだけ好感度を稼ごうとも、父上が反乱を起こす以上もはやどうしようもない。確実に僕たちの関係が末永く続くことはないだろう。
それでも、せっかく関わり合うのだから出来るだけ仲を深めていたいというのが僕の本音だった。
「ルノ様、デートに行きましょう」
「えっ!?どうしたの、いきなり!?」
そんな思惑を抱えての僕の言葉に対する返答。
それがあまりにも明後日の方向にぶっ飛んでいたために僕は思わずツッコミの言葉を入れる。
呼び捨てかつ敬語は辞めて欲しいっていう言葉に対して何故デートが出てくる!?
「いえ、愛が爆発いたしまして」
「……あっ、そう」
僕は大まじめな表情で愛が爆発したなどと話すリノナーラの言葉にただただ頷くことしか出来なかった。
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