事情

「爺や、これはどういうことなの?」


 変人なんていうレベルではないリノラーナとの会談を済ませ、一人の状態となった僕は大慌てで我が家に仕える文官、それらを統括する爺やの元へとやってきていた。

 長年、ラステラ家に仕え、父上からの信頼も厚い彼であれば今回僕の元にやってきた婚約話についても詳しく知っているだろう。


「……こ、これはこれはルノ様。ご機嫌麗しゅう。いかが用件にございますか?」

 

 僕の姿を見た爺やは頬を引き攣らせながら口を開く。


「表情が引き攣った。何か、僕に隠し事でもあるのか?」

 

「そ、そんな滅相もありません……隠し事なんてありませんとも。た、ただですね……少し前は違ったと言いますか」


「婚約話が持ち上がっていたのは何時?」


「ルノ様が生まれたときにございます。リノナーラ第二王女殿下はルノ様が生まれる三か月ほど前に産まれておりますので……」


「三年間、その話が合ったと?」


「そういうことなります。そして、それが本格的に話し合われたのが一年ほど前になります。リノナーラ第二王女殿下の神童ぶりが恐れられるようになった折、成長が遅れていたルノ様の成長が飛躍的に上がり、彼女と同じ神童とされるようになったころですね」


 あぁ……一、二歳児の成長度合いを知らなかったせいで成長しても一向に言葉を発さず、ハイハイをしなかったことで周りからめちゃくちゃ心配されていたあの期間もリノナーラ様は天才だったんだね。


「ともに神童同士で、似た者同士。引き合わせる他ないのではないかと……」


「経緯はわかった。一番聞きたいのはなんで、僕が知らないのか何だけど」


「……ルノ様の父上からの命令にございます。あいつは神童で、歳に似合わない頭脳を持っているが、少し話せばわかる。結構ぼんくらで性根は善人だ。女の子の口から婚約話を出されて、それを断れるほどあいつの心臓は強くなぇ、とのことでして」


「……」


 おっと、流石は自分の父というべきか。

 ここ一年くらいは家に帰ってこず、挙句の果てにはゲームで氾濫を引き起こしたような父親ではあるが、それでもしっかりと見ていて僕の様子をバチ当てしてくるのか。凄いではないか。


「じゃあ、次の質問。なんで、婚約話で僕たち二人だけだったの?」


「リノナーラ第二王女殿下からの要請にございます。私が落とすので安心してください、と。それに周りの大人たちも二人の神童であれば自分たちで話せるだろう、と。実際に問題なく婚約話は出来たでしょう?」


「……」


 おっと、それを言われてしまえば何も言えなくなってしまうではないか。


「それではルノ様。遅らせながら婚約おめでとうございます。臣下一同、お祝いいたします」


 溜まりこくってしまった僕の前で爺やは恭しく頭を下げるのだった。

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