婚約
ラステラ家は現在、自分の両親であり、当主並びにその当主夫人である二人が長らく自領から離れて関係が悪化しつつある隣国と接する前線の方に身を寄せている。
そのこともあって自領の屋敷の中にいるのは父上の部下たちであり、ラステラ家の者は僕しかいない、親戚筋も色々あってここにいないしな。
そんな状態であり、近くにいる者が立場的に己よりも弱い位置にあるという中であったからこその己の自由でもあったわけで、ここ当分そんな僕の自由が揺るぐことはないと思っていた。
「改めて初めまして、私はリノナーラ・ウェストンと申します」
だが、これは何だろうか?
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。僕はルノ・ラステラと申します」
自分の目の前で座っているリノナーラの挨拶に対して僕は内心に疑問を抱えた状態のままで挨拶を返す。
今、僕と彼女は一つの応接室の中でただ二人。
三歳児の子供たちだけで向かいあって座っていた。
「まずはこの場を設けらえたことを感謝いたします。今回の婚約話を受けてくださって」
「いえいえ、こちらこそ、リノラーナを我が領地に招待出来たことを喜ばしく思いますよ」
そして、そんな中で話しているのは自分たちの婚約話である……マジでどういうこと???
三歳児二人が話す婚約話?意味が分からない。
なんで三歳児の婚約話で大人が誰もおらんねん、うちの両親はともかくとして王家の者来いや、国王陛下とまでは言わないけど、せめてはその家臣くらいは。
三歳児二人の婚約話とかただのおままごとだぞ。
「……」
まぁ、そんなおままごと現場には似つかわしくない国王陛下並びにラステラ家当主の判子が押された物々しい書類が並んでいるけどな!
マジでどういう状況やねんて!?こんな滑稽な話、なろう系にもないぞ、どんな状況やねん。
「それでは私たちの間に生まれてくる子供の名前は何にしましょうか?」
僕が内心で目の前の光景に対して困惑しきっている中で、リノラーナはどんどん話を進めていく。
二人で応接室に座って最初にかわす挨拶。
その次として自分たち二人の子供の名前に関する話が出てきた。
「……?何を言っているの?あまりにも早すぎるよ」
いや、あまりにも速すぎだろ。
全然ついて行けないが?学校の持久走でトップから二周差つけられたことを思い出すぞ?
「私たちに求められているものは元気な赤ん坊を作り、次世代に宝物を残すことですから……自分たちが生きていたことを己が死んだ未来の世界でも覚えていてくれる、己が生きた揺るぎない証明。それを作るのが全ての生命の行動理念ですから。一つの番が出来るのであれば、当然の話でしょう」
まだリノラーナは赤ちゃんを産めるような体でもなければ、僕は精通もしていない。
どう考えても速い。
それにまだ婚約だし。
「それでも私としてはルノさんと二人で暮らす今後についての話がしたいですけどね、どのお墓に二人で入りますか?」
「いやいや!?だから、さっきから話が早いんだって!?なんで二人で死ぬ墓についての話をしているのよ!?僕たちは三歳で墓よりもゆりかごが近いでしょ!」
子供の話だけでも更に速いのに、それが死んだときになるとか早すぎて笑えない。
「ふふっ……いいツッコミばかりですね」
そんな僕のツッコミを前にするリノラーナは小さな笑みを浮かべながら口を開く。
「こうして面と面を向かい合わせで、同じ目線で話を出来たのは、初めてな気がします……」
そして、リノラーナはその後に少しだけ顔を沈ませた状態で、湿っぽい言葉をその口からこぼす。
だが、その次に口を開くときにはもう、その表情は明るいものへと変わっている。
「私たちの婚約はまぎれようもない政略結婚の一種でしょう。ですが、私は共に暮らすのですから、愛を求めたいですし、そして……ルノが相手であれば出来るように思うのです。これから、私の婚約者としてよろしくお願いします」
正直なこと言うと、あまりにも急展開過ぎてついていけていないし、目の前で話しているのが三歳の女の子であるという事実を前にして僕はどうしてもこれが現実の出来事であると飲み込めていない。
三歳の子から婚約者、つまりは異性として愛を育んでいこうと言われてどんな表情を浮かべて、どんな感情をもてばいいのだろうか?
「……ッ、もちろん。こちらともよろしく頼みます」
そんな状況ではある。
だがしかし、それでもリノラーナの何故か縋るような印象を与えてくる言葉を無下にすることが出来なかった僕は笑顔で彼女の言葉に答えるのだった。
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