第17話 もう一度だけ、旅したい…

「魔白、起きろ。」

いくら言っても、いくら体を揺すっても、こいつは起きない。

いっそのこと、耳元で叫んでやろうかと思ったが、さすがに気が引けたので体を揺すって起こすという方法を行い続けていた。


既に放課後で、太陽が西に傾いており、教室の窓の外は赤く染まり、微かに開いていた窓の隙間から涼しい風が入り込む。そのせいか、カーテンは揺れ、魔白の前髪も靡いていた。


「魔白、起きろって。」

本当に彼女は起きない。今もスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。

俺は諦めて、魔白の隣の席に座る。

「ったく、なんでこのバカは、こんなにもスヤスヤと眠ってるんだよ…」

呆れた口調で皮肉そうに言ってみた。だが、無意味だった。

魔白が今、枕としている教科書は先程の授業の教科書で、教科は社会だ。


社会科の先生はとても優しく、寝ている者には一切手出しをせず、眠っている姿をまじまじと見つめ、それを嬉しそうに眺めて、授業を再開するのが、いつもの決まりだ。因みに、今日もそれを行った。


俺は魔白を見つめる。

特に意味はない。

だが、3年前までは共に旅をした仲間であり、親友だ。

それは今でも変わりない。

「親友…ね。」

俺はボソリと呟く。あの時、俺が魔白を心配して向こうの世界に行った時、魔白は珍しく、いや3年越しに『親友』と言ってくれた。

これがどれだけ嬉しかったことか。



そのせいか、否か、

俺は少しだけ、もう一度、あの3年前の旅をしてみたいと思っていた。





「もう一度、もう一度だけでいいから、魔王を倒した3年後だからこそ、もう一度、旅をしたいな…」

レオンが言った。




俺は、はははっ、と自分で笑って、魔白をまた揺さぶる。

「魔白、起きろ!この後勉強すんだろ、俺の家で。」

すると、ムクっと顔を上げて、魔白が寝ぼけ眼で言った。

「行こう…レオン…もう一度…」

「え?」

聞こえていたのか?と驚いたが、その後、すぐに眠りに落ちていった。

「なんだよ…ははっ。」

また独りで笑ってしまった。

俺はもう仕方ないと思ったため、ここで勉強することにした。

俺は魔白の隣の席でテキストを開き、ノートに書いていく。








勉強を始めて2時間経過した。

魔白はまだスヤスヤと眠っている。さすがに起こした方がいいだろうと思ったが、魔白が自分で勝手に顔を上げたので、その必要はなかった。

「へ?今、何時?」

「7時だな。」

「へえ?マジで、マジで言ってんのおおおお!」

「ああ、マジだな。」

因みに学校は8時が下校時間なので問題は一切ない。

「なんで、そんなに驚いてんだよ。」


窓の外は既に暗くなっていた。


「え、だって、ほら、あきらの家で勉強するつもりだったし…」

何やらしょんぼりとしている様子だったが、俺は呆れて、

「何回も起こしたってのに、起きないお前が悪い。それに、俺の家はまたいつでも来れる。」

「う、うん。そうだな。」

次は暗い雰囲気で来たか。

「ったく、ほら、もう帰ろうぜ。暗いし。送ってくわ。」

「は?いらねえよーだ!」

「はいはい、いいから準備して行くぞ。」

そんな会話をして、俺たちは学校の外に出た。部活の人たちは、まだ活動をしている。


しばらく、2人は一緒に歩いた。

「なあ、あの時、お前、俺の話聞いてたのかよ。」

「ん?なんのこと?」

「いや、別に。なんでもねえよ。時間はいくらでもあるし、また言うわ。」

「……そう。」

また暗くなった。なんか、こいつ、俺が時間の話をする度に雰囲気が暗くなるな。

まあ、どうせまた、しょうもないことだろうし。

「んじゃな。」

「ん、じゃあね。あ、グリーナに早く返事書いた方がいいよ。」

「え?」

「なんか、返事が返ってこないって騒いでたから。」

「わかった。今日、書くわ。」

「うん、そうした方がいいよ。」

そう言って、俺たちは別れた。


暗い道を独り、歩いた。

空を見上げれば、向こうの世界とは違う星々が見えた。

白い金平糖が転がっているようだった。


「グリーナに手紙書くか…」


俺の髪を冷たい風が靡かせていた。




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次回は2月22日に更新します!

魔白…複雑な気持ちを持ってるっぽいな…

そりゃそうか、親友があと3年後には会えなくなって、話すことだってできなくなるんだもんね…

うう、そんな未来になってしまうのだろうか…

次回もお楽しみに!


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