第10話 かっこよく、キマったぜ。
「王女様。魔白、、、いえ、彼女がご迷惑をかけました。今すぐに魔法を解きますね。」
私は、重い瞼を一生懸命、開こうとした。
この声は…昔、昔の、あきらの、声…
「あき…ら…いや、レオ…ンの、声だ………」
もう無理だ。これ以上は眠気に逆らえない。
視界が徐々に暗くなり、私は眠気に完全に襲われた。
「少々お待ちください。レリース。」
一言、呪文を唱えれば、彼の魔法は発動する。魔白の場合、手のひらを相手に向けて、魔法を発動する必要があるが、彼の場合は違った。
彼は、言葉のみで、魔法を発動させることが出来るのだ。
シャラ…
見えない何かで囚われていた王女様の体が、動かすことが出来ていた。
「おおおう。動かせるう!あなた、ありがとおう。ん?え?お前、と言うか、勇者様⁉︎」
俺はクスッと笑う。
「そうだよ。君たちの言う勇者様だ。」
アホらしいなんて思いながら、王女様が気がむくままに返事を返す。
「ま、ましゃか、勇者様がここに来りゃれるなんてえ!少し、待っててくださいしゃい!今すぐにお母様とお父様をお呼び…」
ほんと、ありがたいけど、くだらない。
「フェイテン。」
俺は一つだけ呪文を唱える。
くだらないものは、くだらない。
王女様はそのキラキラと輝かせていた表情が消え、目を閉じ、倒れた。
因みに、殺してはいない。気絶させただけだ。
俺はその王女様を抱き上げ、王女様の何十倍といった広さのベットの上に下ろし、毛布をかけた。
こんな性格になってしまった理由はまるでわからないが、なんだか、俺は心に何かが空いてしまったような感触を感じながら、王女様の頭を撫でた。
「もっと、違う環境で育っていたら、少しは違う方向に進むことが出来るだろうに。」
しかし、今の彼女にはこの城を担う役目がある。こういった性格になってしまうもの若干、わかるような気がした。
「あ。魔白…」
俺が、魔白が倒れ込んでいるであろう場所に目をやった時には、既に魔白は起き上がっていた。
「んん〜、よく寝たような、寝てないような。」
そんなバカなことを呟く魔白に、俺は大きく、ため息を吐いてやった。
「はああああああああああ…」
魔白は珍しく、何やら言いたげな顔をして、俺を見た。
「……あのさ、ほんと、ごめん。こっちに来いよーとか、調子乗ったことを言って。本当に悪かった。今後は二度と…」
「何言ってんの?お前。」
「え?」
魔白らしくないことを言ったもんだ。いつもなら、「久しぶりに『ブローク』を発動させたんだ。凄いだろ?」とか言ってくるくせに、今は、まるで違う言葉が俺にぶつかってきた。
「俺さ、久しぶりに、こっちに来られて良かったって思ってるわ。何、お前、余計なことをしたなとか思ってんの?ほんと、バカ。俺が今、ここにいるのはお前を、魔白を、助けるためだ。それに、いい感じにキマったからな。いいタイミングだっただろ?」
俺が言葉を投げかけると、魔白はやけに嬉しそうに頷いた。
「ほら、帰るぞ。お前はまだ、こっちにいる気か?」
「ああ、うん。学校、まだ始まらないし。私のせいだけど。」
「ほんと、いい迷惑だな。ほら、乗れよ。俺、結構、箒扱うの上手いんだぜ。」
「ああそう。知ってるし。」
そんな会話をしながら、俺と魔白は一緒の箒に乗り、王女様の部屋にある窓から外に出ていった。
「って言うか、なんでこっちに来れたんだ?お前。」
魔白が不思議そうな顔をして聞いてくる。
「実は、地球に送られてきたのってフィンデンだったんだ。」
「はっ、だろうね。そんな気がするよ。ここのバカな連中は。」
人のこと、言えない…と言うか、ブーメランな気がするのだが、今は置いておこう。
「まあな。だから、兄さんが片っ端から片付けてくれた。」
「ええ!マジ?マジで言ってる⁉︎ほんと、只者じゃあないよねえ。」
「まあな。ああ、あと、王女様には記憶削除を一部だけしておいたから、もう気にすんなよ。」
「あ、そう。なんか、ありがとう?」
その後、魔白を家まで送り、俺は地球に帰った。
そして、二人の小さなハプニングは幕を閉じた。
はずだった。
「はっ!マモロイなあ!あいつらは。相変わらず…」
一人の男が焚き火をしながら、新聞を見て笑っていた。
「ふふ。あのお二人。本当にお似合いね。懐かしいわ。レオンがこっちに帰って来ているのなら、また…ご一緒させて頂きたいわね。」
一人の女が、くすくすと可愛らしく笑い、鳩の頭を撫でた。
意外にも、『勇者』情報は大きく、広く、出回っていたのだった。
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次回は1月29日に更新します!
おっと、新キャラが出てくる予感…
次回もお楽しみに!です!
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