第4話


「川越さん、あなたは本当は何もかも知っていた。瀬戸口が離婚していたことも会社が倒産したことも」


 渡辺の問いに川越はうつむいて沈黙を続けるだけだった。


「わからないのはあなたがなぜあんな嘘を言ったのかです。瀬戸口は自慢話なんてするような男ではない。ではいったい何があってなぜ殺したのか、教えていただけないでしょうか」


 しばらくすると川越は顔を上げ渡辺の目を見た。


「理由がどうであれ俺が先輩を殺した事実は変わらないですよね? だったらそんなことどうでもいいじゃないですか」


「どうでもよくありません。川越さん、よく考えてみてください。瀬戸口のまだ小さな娘さんのことを」


 渡辺がそう言うと川越は驚いた顔をしていた。


「娘さんはまだ父親が殺された事実を知らないでいます。母親の瞳さんは娘に何と説明していいのかわからないと。誰に聞いても瀬戸口は素晴らしい人間だったと言っていました。それなのに人に殺されるほど嫌な人間だったなんて嘘を言えますか?」


 川越が動揺した様子を見せると渡辺はすかさずつめよった。


「瀬戸口が結婚してから会っていなかったというのも嘘。それどころか娘さんをたいそうかわいがっていたそうじゃないですか。娘さんはあなたのことが大好きだと。そんな娘さんにあなたは何と説明するつもりですか」


「……違う」


「何が違うんだ! いったい何を隠しているんだ!」


「ナベさん……」


 岩井は渡辺の口調が強くなるのをせいするように渡辺の肩に触れた。


 その時、渡辺と岩井のスマホが震え二人は同時にポケットからスマホを取り出し眺めていた。


「検死結果ですね……ナベさんこれ」


「ああ……」


 しばらく考え込んでいた渡辺はスマホをポケットに戻すとゆっくりと話し始めた。


「私の推測ですが聞いてください。あなたは瀬戸口に殺してくれと頼まれたんじゃないですか?」


 そう言うと川越はまたうつむいて一点を見つめていた。


「瀬戸口が起業してしばらくは会わなかった。久しぶりにばったり再会したというのは本当でしょう。ただ瀬戸口は自慢話なんてしていない。瀬戸口の口から聞いたのは離婚、倒産、借金、そして病気のこと、ですね?」


 微かに川越の肩が震え出すのがわかった。


「あなたは瀬戸口に頼まれた。病気のことは誰にも言わないでほしい、そしてもう楽にしてほしいと。違いますか?」


 渡辺が聞くと川越の目から涙がこぼれ落ちた。





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