第3話
瀬戸口弘志の学生時代の友人も過去に働いていた会社の同僚も起業した会社の従業員も口を揃えて瀬戸口のことを明るくて優しくて面倒見のいい人と言うばかりだった。
自慢話をするなど考えられないとも。
そして瀬戸口の元妻である瞳の口から出た言葉もそれと同じだった。
「あの人が自慢話なんてするわけありません。川越くんが言ったのですか? おかしいです。そんなことする人じゃないって川越くんが一番よくわかっているはずなのに」
「川越充のことはあなたもよくご存じで?」
「もちろんです」
「瀬戸口が結婚してからは会っていないと言ってましたが。連絡すらとっていないと」
「確かにあの人が起業してからは忙しくてそれどころじゃなかったはずです。でもそれまでは頻繁に会っているようでしたよ。うちにも何度も遊びに来ていましたし。ですから本当に信じられません。川越くんがあの人を殺すなんてとても」
「うーん、結局嘘をついていたのは川越充の方ってことですかね、ナベさん」
「どうやらそうみたいだな。失礼ですが、離婚の原因は」
「ええ、瀬戸口が私と娘のことを心配して無理矢理にでした。これから借金をかかえてしまうから別れてくれって。どうしても迷惑をかけたくないと言って。もちろん反対しましたけど一度こうと決めたら聞かない人だったので」
「離婚してからは瀬戸口と連絡は?」
「もちろんです。週に一回は娘と話していました。私が出て娘にかわって」
「娘さんはまだ小学生ですよね」
「はい、二年生です」
「あと、瀬戸口は普段から睡眠薬を?」
「いいえ、睡眠薬だなんて見たことも聞いたこともありません。体調が悪かったり風邪をひいたくらいでは薬も飲まないし病院にも行かない人でしたから」
「……なるほど」
「あの、何かわかったら教えてください。娘に何と言えばいいのか。あの子が小学校に入る前は川越くんがよく遊んでくれていて。娘は川越くんのことが大好きなんです」
「わかりました」
渡辺と岩井は顔を見合わせると瞳にお礼を言った。
署に戻ると渡辺はすぐに「川越を呼べ」と部下に言った。
「わかりませんね。なぜ川越が嘘をついたのか」
「ああ、なぜあんな嘘をつかなければならなかったのかいったい二人に何があったのか。川越が話してくれるといいんだがな」
「ナベさんはどうしてだと思います?」
「ん? そうだな。瀬戸口や川越のような人間が嘘をつく理由はひとつだ。誰かを守るため」
「誰かを守る……誰をですか?」
「それを今から聞き出すんだよ」
渡辺と岩井がコーヒーを飲んで一服してから取調室に入ると川越充はすでに座って待っていた。
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