城壁前の戦い③

 猪頭鬼オークたちを敗走に導くほどの新任『爆炎術師』、彼は今後歴史に名を連ねるような『術師』になるだろう。彼は兵士も負けない立派な体躯で、その『爆炎術』に負けず劣らずの逞しい体を持っていた。そして短く刈り込まれた金髪に飾られた端正な顔立ちは苦悩に歪んでいた。猪頭鬼オークが去った城壁前の光景はあまりにも凄惨であった。猪頭鬼オークたちの恐ろしいまでの力に押しつぶされ、砕かれ、およそ人間の姿を留めることなく散っていった兵士たち。それも残酷な姿てはあったが、それ以上に新任『爆炎術師』を苦しめたものは、己が術にて焼かれ苦しむ兵士たちであった。敵を吹き飛ばすため、力を込めて放たれた爆炎は確かに敵を焼き、蹴散らした。だが、そのそばで戦い続けた味方の兵士をも彼の炎が焼いた。四名の兵士が城壁の下で火傷の苦しみにもがいている。それとは別に一人の兵士は真っ黒に焦げた顔から黒い息を吐き、周りからも聞こえるような、


ギュー、ギュー


という切迫した呼吸音を周りに響かせていた。


 新任『爆炎術師』はおのわざに震えた。自身の施術が猪頭鬼オークを追い払うだけではなく、味方の兵士にとどめを刺そうとしていることに。そして悔いた、自分が『爆炎術師』になったことを。猪頭鬼オークの全てを焼き払う。自分の爆炎でと、意気揚々とこの赴任地に赴き、そして彼は実践した。結果彼の望みは成就した。彼の望まない犠牲を伴って。自分の施術は人を救い、猪頭鬼オークを薙ぐはずだったのが、自分の施術が味方の命までも奪おうとしている。若い彼はその現実に耐えられなくなっていた。彼は自分なりに責任の取り方を決めた。このまま城壁から外へ向かって落下すること。さすれば自分の肉体は地面に砕け、自分が傷つけた兵士たちへの詫びとなる。若き『爆炎術師』が自分の命で犠牲となった命に詫びようとしたとき、まさに美しき光がそれを阻んだ。『爆炎術師』の身投げを阻んだのは、麗しき天才『治療術師』ヴィルヘルムであった。彼はしっかりと失意の『爆炎術師』の体を抱え、そして言った。

「お見事です。敵をほふるのが貴方の仕事、味方を癒すのが私の仕事。これ以上私の仕事を増やさないように願います。」

 自責の念に堪えられなくなっていた『爆炎術師』はヴィルヘルムのかいなで泣き崩れた。ヴィルヘルムの言葉は美しく、そして優しかった。

「あとは我々『治療術師』にお任せを。」

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