城壁前の戦い④
仕事をするなら成功率が高い仕事を選択したがるのが世の常である。四人の火炎による熱傷を負った比較的軽傷の兵士たち、その治療はヴィルヘルム以外の『治療術師』が担当した。そして、
ギューギュー
と詰まりかけた笛を無理矢理吹くような、なんとも苦しそうな呼吸音をさせ、真っ黒に焦げた顔面の兵士が城門内に運び込まれ、ヴィルヘルムの前に連れてこられた。彼の火傷は顔面に集中し、比較的火傷の少ない両手で苦しそうに喉を抑えている。
「彼を助けてくれ、お願いだ。」
先ほどの若き大柄な『爆炎術師』が涙ながらに懇願する。もしこの兵士が助からなければ、
「
その叫びは小夜には当然届かない。無事であった兵士たちが慌てて小夜を呼びに行った。
押っ取り刀で小夜とエルフェリンが治療現場に辿り着いたころ、顔面熱傷を負った兵士の呼吸音は弱り始めていた。それでも、
ギューギュー
と切迫した呼吸音が小夜に事態の深刻さを認識させた。その呼吸音、顔面は真っ黒に焦げているがその他の部位はほとんど火傷がないこと、そして苦しいながらも吐き出される呼気が煤けていないこと。小夜は即座に診断した。
≪上気道熱傷による喉頭浮腫、あるいは喉頭付近の気道閉塞。≫
火事に被災した患者がその火炎や熱気を吸い込み、
弱弱しくなっていく兵士の呼吸音を聞きながら小夜は即断した。そしてエルフェリンから消毒用の高濃度アルコールを受け取り、兵士ののどぼとけ周囲を消毒した。そしてのどぼとけの下を指さして言った。
「ここに穴を開けて、エルフェリンの小指が入るくらいの穴を。」
周囲はその言葉に小夜の正気を疑った。喉に穴など空けたらそれこそ致命傷、それが彼らの常識であった。もちろんヴィルヘルムの信頼は揺らがない、思わず詰め寄る周囲の兵士たちを両手で制し、消毒用の高濃度アルコールで右手の人差し指を消毒し、先日同様その祝詞にて指先に青白い光を灯らせた。周囲が見守る中少しずつ、皮膚が自らの意思でその光を避けるように、小さな
ビュー
と明らかに先ほどまでの弱弱しい呼吸音とは違う、力強い吸気音がヴィルヘルムの空けた孔から聞こえた。突然喉の
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