　この世界の誰もが知っている。猪頭鬼（オーク）はまともに戦って勝てる相手ではないと。そして猪頭鬼（オーク）にとってこの攻撃は戦闘でない、人間でいうところの狩猟であった。彼ら猪頭鬼（オーク）に躊躇はない。当たり前だ。麦の収穫に心を痛める人間はいない、それと同じであった。城門前に殺到する猪頭鬼（オーク）たち、少しでも数を減らすための遠征にて皮肉にも猪頭鬼（オーク）の数よりも自分たち人間の数を減らしたその遠征、それが無駄だったかのように猪頭鬼（オーク）たちは大挙して城門前に現れる。弓兵や遠隔攻撃が可能な『爆炎術師』が必死で猪頭鬼（オーク）を蹴散らそうと奮起する。だが弓矢は猪頭鬼（オーク）には軽傷を負わせるだけで、『爆炎術師』の致命傷となり得る施術もその連発には時間を要した。今にも城壁を乗り越えようとする猪頭鬼（オーク）たちを止めるには、高さによる位置エネルギーを使った槍にしがみついての落下、兵士たちは自らを刃（やいば）の重りとし、オークの背中めがけて槍を抱きながら飛び降り続けた。飛び降りた兵士たちはその戦果に関わらずもう壁内に上がる術を持たない。地上にて圧倒的に不利な戦いののち、その命を蹂躙される。あまりにも絶望的な戦いであったが、それでも兵士たちは飛び降り続けた。先に飛び降りた兵士に続いて、後から来る仲間を信じて。結果少しずつではあるが猪頭鬼（オーク）たちが退き始めた。彼らも生き物、怒りに似た感情に突き動かされながらも、敗北への恐怖をも持ち合わせているようだった。猪頭鬼（オーク）たちが退き始めたころ、先日赴任したばかりの『爆炎術師』がその力を振るうチャンスを得た。彼は城塞都市オストプロシアを救うため、必死の覚悟で前線に飛び降りる兵士たちを一人でも救うため、彼はその力を解放し、その凄まじい爆裂音が城塞都市オストプロシア中に響き、それが小夜やエルフェリンの耳にまで届いた。