療養院④

「さあさあ、起きなさい。ベッド周りを片付けますよ。」

 唖然とする凸凹コンビならぬヴェルナーとテオドールを尻目に、小夜は軽症者たちにベッドのシーツ交換、ベッド周りの掃除をさせ始めた。ヴェルナーとテオドールはもちろん小夜を説得した。

「怪我が完治するには一週間くらいかかるんですよ。一週間安静にしてくださいって皆さんに協力してもらってるんですよ。」

 しかし小夜を説き伏せることなどできない。怪我人たちも小夜の迫力に負けて渋々従い始めた。するとどうだろう、先ほどまでは顔色の悪かった軽症者たちが活気づき始めた。それを見ながら小夜が小鼻を膨らませて言った。

「ほら見なさい。何にもさせないで一週間ベッドの上で過ごさせたら、健康な人だってあっという間に体が弱ってしまう。怪我人だって回復過程に体を動かす必要があるのよ。」

 軽症な負傷兵たちは安静を強いられていたのが退屈だったのか、嬉しそうに掃除を行い、シーツを取り換え、住み着いていたネズミたちを追い出した。しかしあまりにも素直に従うのが小夜にも不思議であった。兵士たちはみな若く、ヴェルナーとテオドールと同じくらいかちょっと年上の男性ばかり、そして容姿はみんな金髪、碧眼へきがん、白い肌で長身だががりがりに痩せている。小夜の指示に反論することもなく従順で、ほとんど小夜と目を合わせようともしない。

≪もしかして、この子たち女性を見たことがないのかしら?≫

 この不思議な世界の中、素直で可愛らしい年下の男の子たちににんまりとする小夜であった。

 

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