療養院⑤
小夜の療養院改革は止まらない。動く仕草や顔色等々を細かく観察していた小夜は、なんと軽症で自分で動ける負傷兵の8割方を『退院』させてしまったのだ。ヴェルナーとテオドールは最早言葉を失い、小夜の手際にただただ感心させられていた。結果自分で動けない、身の回りのことをするのに介助が必要な20名程度の負傷兵だけが療育院に残った。動ける者たちが片づけを手伝ってくれた上に負傷兵の数が激減したので小夜とヴェルナーとテオドールはようやく手が空いた。
「ちょっと休憩しましょう。」
ヴェルナーはさきほど兵士たちに配る粥を持ってきた厨房へとスキップしながら姿を消した。しばらくするとヴェルナーは木の板を張り合わせたようなジョッキを三つ持って嬉しそうに帰ってきた。ジョッキの中身は、ハーブの香りが強いが小夜の知る飲み物、ビールであった。
≪いやいや、勤務中に酒ってダメだろ。それに君たち未成年だろ。≫
そう思いながらもこの世界では自分は新参者、ルールに従うべきと自分に言い聞かせ小夜は黙っていることにした。何よりこの世界のビールに興味があったのが本心かも知れない。
≪ぬるいけどおいしい、黒ビールっぽいけどハーブが効いててさわやか。≫
これが小夜の感想であった。
「気に入って頂けました?まだまだいっぱいありますからどうぞどうぞ。」
笑顔でジョッキを傾ける小夜に気をよくしたヴェルナーは嬉しそうにお代わりを勧めた。
「いやいや、これからまだやることもあるし。お茶とかないの?」
その言葉にテオドールがビールをこぼしそうな勢いで驚いた。
「お茶?そんな高級なもの見たこともありません。サヨさんは貴族なのですか?」
≪貴族ってなに?≫
この言葉が丁度よいきっかけとなり、小夜はこの世界について二人に質問を始めた。
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