鴬塚小夜④

 朝を迎えたホテルに戻った小夜はシャワーを浴びて酒を抜き始めた。

≪さてとどうするか?≫

 未だアルコールに満ちた全身に熱い湯が心地よい。そんな感覚の中小夜は今日の予定を思い描いていた。

≪今日も学会参加予定だったけど、さっきのイケメン君、湯本ゆもと君だっけ?≫

≪彼と顔を合わせるのも気まずいなぁ。≫

 酒の不埒ふらちとはいえ、小夜にあんな宣言をする男性がいるとは。現実とは思い難い状況を思い出し、小夜は一人苦笑した。

≪もしも私がまだ若くて、スタイルが良くて、可愛くて、それから・・・・・・。≫

 それからの先が長すぎることに気づいた小夜はため息をついた。小夜自身が良くわかっている。自分が現実世界において男性とのロマンスにいかに不向きであるかを。自分に都合よい物語が描けるのは仮想現実の世界だけ、自分にそう言い聞かせ小夜は濡れた体をバスタオルに包んだ。そして身支度を整え始めたのだが、どうにもおかしい。視界がぐらぐらと揺れ始めた。体調不良を感じながらも加代子は冷静であった。

≪こりゃだめだ。お酒飲んだ後シャワー浴びて、血圧下がってる。≫

 倒れるにしても裸のままでは救助されたときに困る。

≪お見せするほどのものでもないし。≫

 薄れゆく意識の中、小夜は根性で下着を身に着けワイシャツを羽織り、最後の力でグレーのレディススーツに身を包んだあと、ばったりとホテルのベッドに倒れ込んだ。

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