『術』

 人間と猪頭鬼オークとの戦いは主に城壁外で行われる。城壁内に猪頭鬼オークが入り込んだ時、それは街の終わりを意味していた。体躯では圧倒的に劣る人類はその知恵を以て猪頭鬼オークに対抗した。天から授かった腕力で軽々と人を打ち殺し、その牙で易々と人間の頭を砕く猪頭鬼オークに対し、人間は牙の代わりに鋼の刃を振るい、脆弱な身体を金属の鎧で覆った。それでも猪頭鬼オークの優位は揺らがなかったが、彼我の戦力を均衡に近づけたのは『術』と呼ばれる超自然的な力だった。『術』は学問として研究され、その特徴によって体系化された。そしてその『術』が人間の新たな刃となり、新たな鎧となった。この『術』は国家機密として扱われ、プロイゼ帝国では帝都でのみその教育がなされた。

 『術』と呼ばれるその力は様々であった。幻素モルフィンを用いてありもしないものを相手の脳内に描き出し、相手を混乱させる『幻術』、地中に眠る燃素フロギストンを集めそれを燃焼させる『爆炎術』、風素シルフの力を借りて相手を吹き飛ばす『風嵐術』、そして人間の体に働きかけその回復力を飛躍的に早める『治療術』など今も研究が続いており、新たな『術』体系が生まれてはその実践が繰り返されていた。猪頭鬼オークとの戦いが長く続いたこの世界では、戦闘に役立てる『幻術』や『爆炎術』、そして負傷者を癒す『治療術』に重きが置かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る