ヴィルヘルム・アイントホーフェン①

 ヴィルヘルム・アイントホーフェンはその潜在能力を幼いころに買われ、帝都で『術』を学んだ一人である。彼は『治療術師』としての教育を幼少のみぎりから叩き込まれた。他の『術』と同様に、『治療術』も決して万能ではなく、失われた命が戻ったりすることはない。もともと体に備わっている治癒力を『術』によって加速させている、それだけのものだった。だから『治療術』をかけられた患者は失った血肉を新たに補うが如くものすごい渇きと空腹に襲われる。その体からの代償補填だいしょうほてんとも言うべき欲求を満たせなかった者には傷が治っても衰弱死が待っていた。

 『治療術』は主に外傷向きであった。風邪や食あたり、膀胱炎等といった内科疾患には研究の手が伸びにくかった。この世界において『術』は猪頭鬼オークとの戦いに役立つものから研究がなされていた。

 帝都において『治療術』の練習には罪人たちが利用された。死刑を免れる程度の罪人たちはそれぞれ、『治療学』のを与えられる。『治療術師』を志す者は必要に応じて傷つけられた罪人たちの手足を繋ぎ、胸の穴を塞ぎ、はみ出した臓物を腹に戻した。あまりの凄惨さに『治療術師』への道を断念するものも少なくなかったが、ヴィルヘルムはやり遂げた。いつの頃からかヴィルヘルムは天才の名を冠する様になり、罪人たちは腕の良いヴィルヘルムの前に列を成すようになっていた。

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