第2話
──仕事が終わり、居酒屋の一席に着いた。
早く帰ってリュウと遊びたい。
でも残念ながら、今日は会社の飲み会だ。
今時、全員参加を推奨するのはいかがなものだろう。
「ハァ……」
ため息が自分の耳にこだまする。自分が吐いたため息がこんなに大きかったか、とびっくりする。──が、やっぱり私じゃないなと思い直していると、隣に座る男性が私の方を向いた。
「あ! ため息、すいません! 思いの外、息が漏れちゃって……」
……なんて正直な……。
思わず笑ってしまいそうになるのを、唇をぎゅっと締めて堪える。
この人は確か、営業部の堂園さんだ。
背が高く、羨ましくなるほど綺麗な二重まぶたを携えた目は目尻にかけて少し下がっていて、優しそうな印象を受ける、爽やかなイケメンだ。
それとは裏腹に、推しの女性アイドルの話を大声でする、残念イケメンとして社内では有名だ。
でも、隠れ推し活をしている私にとっては、堂々と推しの発言を出来る彼のことを、少し尊敬していた。
「飲み会、私も苦手なのでお気持ち分かります。あ、ビールのおかわりどうですか?」
「あ、ありがとうございます。……経理部の鳥飼さんですよね? ホント、さっきのため息、すいませんでした。飲み会が嫌っていう訳ではないんですけど。僕、インコを飼ってて、様子が気になっちゃって……」
「え、インコ!? 私も飼ってるんです!」
彼──堂園弘樹とは互いに飼っているインコの話で意気投合した。そして後日、二人でご飯を食べに行った。
「ずっと前から素敵な人だな、と思っていました。僕とお付き合いしてください」
なんとも彼らしい、真っ直ぐな言葉を受けて、私達は付き合うことになった。
「ハア!? なに、その女!」
初めて行った彼の家で、修羅場が待っていた。
相手は彼が飼っている、インコの梨華ちゃんだ。
“梨華”という名前は彼の推しのアイドル、梨華ちゃんからとった名前らしい。
──もっと殺伐とした空気になるべきなのかもしれないが、私の口角は緩みっぱなし。
まんまるの瞳にフワフワの毛並み。リュウより少し赤みがかった濃いオレンジのほっぺ。リュウとよく似ているけど、リュウには少し黒い毛が混じっているのに対して、梨華ちゃんは綺麗な白色だ。一目で心を鷲掴みにされた。
「ちょっと、アンタ! 私の弘樹に手を出すなんて許さな──ピィ!」
あ、思わず頭を撫でてしまっていた。
でもまんざらでもないみたい。頭をひねって“ここを撫でてほしい”とばかりに差し出してくる。
「さすが、インコ飼いは扱いが慣れてるね。二人が仲良くなってくれそうで良かった」
「うん」
梨華ちゃんを撫でながら応えると、梨華ちゃんは気まずそうにチラチラと私に視線を向けながらも、素直に撫でられ続けていた。
「梨華ちゃん──あ、人間の方ね。梨華ちゃんも今、リュウと同じように休業中なんだけどさ」
「うん」
確か、梨華ちゃんの休業の理由は明かされていなかったはず。
「リュウと同じ、
「──どうしてそう思うの?
「僕、一度だけ休業中の梨華ちゃんを見かけたことがあるんだ。マネージャーらしき人に付き添われて、ボーッと海を見ていた。彼女の表情から、“自信”というものがすっぽりと抜け落ちたかのように、ひどく不安げな表情だった。──それから一年くらいは経っているけど、復帰の情報は未だに出ていない」
なるほど。確かに、リュウの休業発表の時にテレビで特集していた、
──
発症原因は解明されておらず、これといった治療法もないらしい。
それから──
それでも、過去に何人か、
そして、彼らの中に復帰した人はいない。噂される人たちの中には既に芸能界を引退したアイドルや俳優もいる。
◇
──二度目のお家デートは、私の家に弘樹が来た。
リュウと梨華ちゃんを会わせてみようという話になり、弘樹は鳥籠を抱えている。
「オイ、誰だよ! その男──」
リュウが弘樹を見るなり、声を荒げる──が、途中でピタリと停止する。
リュウの視線の先には、梨華ちゃんがいた。
まさか……梨華ちゃんに一目惚れ……?
きっとそうだ。だって、リュウのほっぺは赤く染まっている。──って、それは元からだった。
梨華ちゃんはというと、同じくピタリと停止し、リュウを見つめている。
「ピヨ……」
ああ、完全に恋する乙女状態だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます