第20話 詰んだと思ったところから活路を閃くと飛び跳ねたくなるよね

 さて、見晴らしのいい荒野だ。

 寒さを我慢して突っ走れば夜明け前には入り口につける。


 昼間でも暗い常夜の森におれは入った。

 魔物は襲ってこない。

 四獣将を倒しちゃったから恐ろしくて襲ってこられないのかもしれない。

 経験値稼ぎは詰んだ。

 これで魔王が倒せなければ、ゲームオーバーということになる。


 と、まだ戦力アップの方法が残されていることに気づく。


「第三クラスチェンジしかねえな」


 ぼやいた。

 第一クラスチェンジをすっ飛ばしたので、ちょうど第三クラスチェンジのポイントはある。


 おれは深い森まるで知っているかのようにを迷うことなく進む。


 すると、青く輝く聖水がたまっている池に出た。

 小さな池の精霊が話しかけてくる。


「なに用でございましょうかな。ここは邪悪な森にあって唯一の神聖な場所……」

「クラスチェンジができる場所でしょう?」


 もったいぶるなよ。


「ほう、それを知っているなら話は早い。どのクラスに変更しますか?」

「《シャドウウォーカー》で頼む」


 シャドウウォーカーは影法師とも呼ばれる。用いる武器は棒や杖や先端の丸まった棍。

 だが最大の特徴は特殊武器ではない。

 敵の影を移動できる特殊アビリティだ。


 魔王グリフォンは、鷹と獅子の因子を持つハイブリッド種だ。

 地上戦と空中戦の両方を必要とされる。


 普通のチャートでは習得魔法と魔法力に全振りして、空を飛ばれたら間髪入れず撃ち落とすのがセオリーだが、シャドウウォーカーは戦法がまったく異なる。ぬるっと影から出現して、空中にいるうちに滅多打ちにし、地面にたたき落として大ダメージを狙うのだ。

 もちろん、強さに見合った習得ポイントは持っていかれるので、魔法特化に比べれば威力が落ちてしまう上級戦法である。


 ……ってのを知ってるんだよなあ。

 魔王との決戦よりも、記憶が戻らないことに不安を覚える。

 なんかほんとに重大なことは忘れたままな気がするんだよなあ……。


 池の精霊が語りかけてくる。


「シャドウウォーカー……影をなぞる者。間違いはありませんか?」

「はい」


 くどい。

 こういうときって確認はいいからさっさとクラスチェンジさせろよ、と思うよね。


「ではクラスチェンジの儀式を行います」

「さっさと……あ、いえお願いします」


 常夜の森に光が生まれた。

 一瞬だけだったけれど。


 装備の引き継ぎは問題なし。第二クラスのアビリティも引き継ぐので武器の形状変化も同様。岩石を棒や棍に変化させればいいだけだ。問題なのは使い慣れていない武器を早々に扱えるかという点だ。使い慣れている物といえば、双剣くらいだろう。ただし、かなり短くなっているので、いままでどおり使えるかは未知数。

 服装は、忍者と魔法使いの中間を思わせるものに変化した。魔法忍者というところだろう。《英雄のローブ》が《影法師のローブ》に変わっていて、性能も上がっている。最終装備とか言っても過言じゃない性能だ。ありがてえ。


 これで最後の準備が整った。

 あとは魔王城に乗り込み、グリフォンを倒すのみ!


 池の精霊にお礼を言う。

 常夜の森は不気味なほどの静かさに戻った。


 いつの間にか池が消え、周囲は真っ暗闇の森しかない。

 それでもおれには、まるで昼間のように道順が見えている。

 そして、出口で魔獣の腕輪をかかげて魔王城への道を開いたのだった。

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