第18話 必ず殺す技とも言えない必殺技です
一番手、カンガルー型の魔物。
クラスチェンジの塔で戦った石像が、鈍重な拳闘士だとすると、こいつは中軽量級の拳闘士になるだろう。オフェンス・アクションとディフェンス・アクションを、絶え間なく数値変化させてくる。攻防にバランスの取れたスタイルで攻めてくる難敵だ。かつ、いままでの総決算でもある。
アクションキャパシティを効率よく運用しなければ、この魔物との戦いは長引いてしまう。早く世界を救いたいおれにとって、それは避けたい。おさらいにちょうどいい相手とも言えるかもしれないが。
オフェンス・アクションは拳による超接近型。
ディフェンス・アクションは足さばきによる超回避型だ。
ブラックフェンサーの近接攻撃を試す機会としても合っている。
荒野にひゅうと一際つよい風が吹く。
…………
……。
カンガルー型の魔物の姿が消えたのは刹那だった。
がいん! 両手に鋭い衝撃。
おれはいつの間にか魔法を発動させ、両手から氷塊と岩石の剣を作り出していた。その双剣の腹に、敵のショートアッパーが衝突した……と思われる。
予想以上の難敵におれは気を引き締める。
オフェンスとディフェンスを五分に張っていたおれに、いまの攻撃の内訳はわからない。
しかし、攻撃と同時に目に映るぎりぎりの速さで引いたところから見て、オフェンスの数値はそれほど高くなかったはずだ。
距離を取られたので遠距離魔法で追撃をかけたいところだが、あまりの速さに捉えるよりも痛打を浴びて攻撃を不発に終わらされる可能性が高く、有効策とも言えず……。
「カウンターだな」
ぼそりとおれは敵に聞こえない程度の声量でつぶやく。
相手が攻撃してきた瞬間に、こちらの攻撃を合わせる。つまりは反撃。
言うのは簡単だが、やるとなると話は変わる。
すさまじい速さの攻撃に反撃をたたき込むのは、至難の業だ。
おまけにアクションキャパシティ数値の駆け引きもあるときている。
死ぬほどの威力はないにせよ、苦戦は避けられないとおれは覚悟する。
…………
……。
ずどどどどど!
まただ、また拳を剣の腹にたたき込まれた。
タイミングが合っていない。
しかし、相変わらず、こちらにダメージはない。おちょくられているのか、とも思えるが、敵の筋が立った真剣な表情を見てそれはないと思考をかき消す。
…………
……。
三度目の打ち合いで、敵の考えていることが読めた。
こちらの攻撃を待っている、というか攻撃手段を見極めようとしているのだろう。
おれが適当に振った剣閃が当たったのだ。
ただし、ディフェンス・キャパシティに値を割いていたため、ダメージは発生せず、相手も無傷だった。
これはまずい。
いままでに戦った者たちは、自分から攻めるのが信条だった。だが、この敵はおれと同じく相手に攻めさせてから自分の攻撃を入れさせようとしている。これでは埒が明かない。緊張感が増していく一方で、時間はじりじりと無慈悲に過ぎていく。
汗がぽとりと落ちる。
両者の汗だった。
太陽が雲に隠れて、一瞬だけ暗がりが広がった。
…………
……。
おれはこの状況を打破するため、新しくオフェンス・アクションを習得した。
《クリスクロス》という。反撃に反撃を合わせるという反則じみた技だが、そもそも設計上にディフェンス・アクションを主体とする魔物があまりいないあたり、死に技(使えない技)の印象が強い。
魔法や技にも習得に必要なポイントがあるため、早々に魔王を倒したいなどと思わなければ、非常にもったいないとも言える。
なお、このオフェンス・アクションは、ディフェンス・アクション無視というとんでもないおまけ効果まで付随する……。
決して見えないわけではないが、目に映りにくい攻撃に、おれは、《クリスクロス》(150)を発動して対応した。
ぱぱぁーん!
二本の剣が腹で拳を上空方面へを受け流す。膨大なオフェンス・アクション値に耐えられず華麗なディフェンス・アクションを見せていた敵の体勢が崩れた。
すると、チャンス
ブレイクは特定のアクションを致命的に中断させた際に突入する。オフェンス・アクションは不可、ディフェンス・アクションに割けるキャパシティにマイナス補正がかかってしまう、絶対に陥ってはならない状態。
ごくごく一部の魔物にのみ設定された実験的なシステムだと思い出し……あれっ?
また例の記憶障害である。
かぶりを振ってブレイク状態にある敵に向かって攻撃を炸裂させる。
苛烈な縦斬りと横斬りを組み合わせた《十文字斬り・絶》(40)と《アスタリスクエッジ》(80)を組み合わせた
威力と拘束力がべらぼうに高く、必要アクションキャパシティ値は、なんと最低でも160からである。この技を連発していれば勝てるんじゃね? と考えてしまうかもしれないが、絶対の弱点というものはある。
「ぐにゅにゅにゅ……」
「ぐおおおおおおお!」
変な声になってしまった。
当たり前だが、技の動作は長くてその間に攻撃を食らうと、高確率で中断されてしまうこと。
さらに。
「ぎ、ぎにゅにゅにゅ……」
「す、すばらしい、技だな」
技を出した後にちょっとだけ長い硬直を強いられてしまう。
もちろんこの間はディフェンス・アクション値が防御の成否に関わるので、文字通り必殺技でなくては使い物にならない。この技を出したらトドメくらいの気持ちがなければ、とてもじゃないが使えはしないのだ。
果たして三合ほど濃密な打ち合いをした相手は。
どさり……。
地に突っ伏したのだった。
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