第16話 みんなどこか普通じゃないんだよ
「えっ、もう、宝珠を持ち帰ってきたのか!」
「はあ、まあ」
夜になる前に神殿についたおれは、とりあえず報告だけでも済ませておくことにした。
相手は例の偉そうな爺さんだ。
そしたら驚かれた。
「あれを守る魔物のようなやつはおらんかったか?」
「変な石像がいましたね」
「そうじゃろう! 手強かったじゃろう!」
「いえ、雑魚でした」
「えっ」
「ん?」
「儂の……最高傑作が……雑魚……」
「もしかして壊したら駄目だったとかそういう系ですか?」
「い、いや……強さを測るために稼働させておったから壊されても問題ないんじゃが」
「じゃ、べつにいいですよね!」
おれは無邪気に答えた。
実際にレベルアップに貢献してくれたので、あの石像の無力化は無駄ではない。勇者の試練として、ひょっとしたら後に語り継がれるかもしれないし。うん、ひょっとしたらな。
対して神殿長と思われる爺さんはしょんぼりしている。
なにか精神に傷を負うことでもあったのだろうか、……わからない。
「まあね、うん、きみの強さはわかったから、さっさとクラスチェンジしちゃいなさい」
「え、いきなりっすか」
ブラックフェンサーと決めていたとはいえ、他人からYOU、さっそくなっちゃいなYO!などと勧められると気が引ける。
すると爺さんが夜中にも関わらず、声を荒げた。
「儂は早くゴーレムの修繕に向かいたいのじゃ!」
寝静まっている方々が起きてきても知らんぞ。
「ぼろっぼろのばらっばらっすよ?」
とても言葉通り簡単に直せるとは思えない。
「ええい、なんじ《天職の宝珠》の加護に乗っ取りブラックフェンサーへの転職を認める!」
「おお……」
しゅわわ…………
………………
…………。
光の粒子と光の泡が身体にまとわりつき、それらが収まるとなんだか動き回れる範囲が速く、そして広くなっているように感じた。
きゅっきゅっきゅ!
うむ、反復横跳び、跳躍、制動が飛躍的に向上している。魔法使いではありえない挙動だ。ブラックフェンサーへの転職は無事に完了したといったところだろう。もっとも、戦闘の基礎が異なるため、最初は苦労するかもしれないが。
さて、ここは慎重にブラックフェンサーの戦い方を覚えてから冒険に再出発するところだと思うのだが、別の思考に染められる。すなわち、さっさと魔王の幹部を倒しに行こうぜ。と、謎の誘惑が襲ってくるのだ。そして、それはきっと正しい。
《RTA(リアルタイムアタック)》という単語を思い出してから、さっさと世界を救うべしなる願望は、より顕著になっていっている。いったいどんな意味なのかはわからない。でも、本能で覚えているのかもしれない。それはきっと〝記憶〟についてのものだ。
最速で平和を勝ち取る勇者。
まさに憧れる、痺れる称号だぜ。
というわけでおれは無事にクラスチェンジを終え、大幅な戦力の拡大に成功した。今後とも襲ってくる魔物たちを容赦なくほふる準備は淡々とできていた。
いよいよ、最大の難所と呼ばれる、魔王軍四天王との四連戦を行う。行う大陸の場所へと歩を進める。
「うむ! 死にたくないが楽しいぞ!」
おれは次第に自分がおかしくなっていることに気づいていなかった。そしておかしくなっているからこそ戦い抜けることをまだ誰も知らない。
すべてはこの世界。
RTAが謎の鍵を握っていた。
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