第12話 お水を一杯いただきたい気分です……

「うっひっひ」


 砂漠の城下町ミュルヘンに向かって、夜明けの砂漠を進む影がひとつ。

 おれです。


 おれは上機嫌だった。ピラミッドで装備の更新ができたからだ。《英雄のローブ》は、まだ現役だが、武器である魔法具の《白銀の指輪》はさらに上級の《賢者の指輪》へと変わった。これでさらにアクションキャパシティに補正がついて、強い魔法を放てる。


 ついでに《幻影の首飾り》という装飾品もいただいておいた。今回の戦闘でわかったのだが、防御を固めるよりも、回避のディフェンス・アクションのほうが自分には合っているらしい。なので、回避に補正がつく装飾品は願ったり叶ったりだ。武器とどっちが嬉しいかと問われたら迷うくらいに嬉しい。


「うーっひっひっひっひぃ!」


 ちなみに、ヴォルさんといると2人パーティと見なされてエンカウント率が上がってしまうために、すでに別行動だ。


 ってなわけでお宝の産地ピラミッド。先に攻略しておいていいことずくめであった。


 熱風と冷風の中間。

 ちょうど心地よいそよ風に気分をよくしながら、ミュルヘンの城への潜入を試みる。

 決行は夜がいい。見張りも寝静まっている頃だ。

 勇者らしくないが、真実の鏡で確認して魔物だったら、そのまま暗殺でいいかもしれない。

 あとのことはヴォルさんがやってくれるだろう。

 我ながら勇者ってのはほんと身勝手な役回りだと思ってるよ。

 まあそのくらいはさせてもらえないとやってられないんだけどね。なあなあ、いままに何回死にかけてるの? というか死線しかなかったよね? もっとゆるーくその辺に生息する雑魚の魔物を倒して安全にレベルアップしたいのに……。


 なぜだか記憶の奥がちりちりと燃えさかるようで許してくれない。早く、もっと早く世界を救えと命じられているように、おれは突き進んでいる……女神ルーリエの呪いか?


「おっと、見えた見えた。……うむ、魔物の町には見えん」


 茶色の平屋が目立つ巨大な町が、地形線を飛び出して見えてきた。

 あれがミュルヘンの城下町だろう。

 魔物に襲われ続けている雰囲気というわけではなく、平和そうだ。


「朝早いのにご苦労なこったねえ」


 砂漠の町は水場――すなわちオアシスがなければ成立しない。いまはちょうど朝の水汲みをしている時間のようだ。子どもたちがひっきりなしに、町の中心部に向かって、いくつかの樽を持ちながら集まっている。

 きっと中心部に水場、あるいは井戸があるに違いない。


 おれは城下町を散策したい衝動を我慢しながら夜を待つ。ここで見つかって、よそ者などと騒ぎになったら元も子もない。耐えろ……耐えるんだ……、腹減った。


 高台になっている場所から眺めること数時間。

 ようやく日が落ちて暗くなってきた。

 日中は砂漠の熱にさらされて干からびると思った。干し肉も飲み水も残り少ない。決行だ。

 手はずではヴォルさんが城下町で一暴れしてくれることになっている。


「うおおお、魔物だ! 魔物の襲撃だ! 備えろおおおお!」


 ちょうどそんなことを思案しているときに、聞き慣れた大声が届いた。

 合図。

 ヴォルさん、ナイス。

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