第10話 物わかりはよくないので!
ヨロイさんは長らくひとりでピラミッドを守ってきたらしい。
しかし、孤独からもう成仏したいと願うようになり、とても長い月日が過ぎたという。
「我が輩は狂う寸前なのですよ、勇者どの……」
「……」
「知性のない化け物として存在し続けるよりも、誇り高い死を望みます」
「……」
「まだ少年のあなたには酷なことかもしれません。ですが、勇者であるあなたに頼みたい」
「……」
「王墓の守護者として戦い、勇敢に散ったならば、眠れる王も納得してくれるでしょう」
「むりだ」
おれは小さく声を出した。
「勇者どの?」
「むりですよ! そんなの、むごすぎる……報われない!」
「そんなものなのです」
その後も長々とヨロイさんは説得してくれた。
しかし、おれは、どうしても許しがたい感情を抑えきれずに否定した。
この世には《役割》というものが存在して、ときにあらがえないものであることを知った。戦線都市ビシャルゴで出逢ったサシャがそうだった。都市長は明言しなかったが、もしも彼が倒れてしまった場合はサシャが代わりを担うはず。
重要な役割にある者ほどその重大性は増す。
理解はできる。
が、受け入れるのは無理だ。
代わりに別のことを考える。
勇者である自分が死んでしまったらどうなるのだろうか。新しい勇者が生まれて、そいつが魔王を倒す旅に出るのだろうか。答えはわからない。
「勇者どの」
「……」
ヨロイさんの声で意識を引き戻された。
「難しく考えることはないのです」
「どういうことですか?」
おれは声が震えるのを抑えながら聞き返した。
「我が輩も魔物の類い。それを討伐するだけだと考えればいいのですよ」
「そんな!」
「我が輩は魔物です、このままではいずれ魔王の配下になってしまうでしょう」
「……」
ヨロイさんの決意は固かった。
このまま逃げるのもありだろう。戦闘を行ったら時間がかかってしまう。無視をして脱出し、本来の目的地へ向かうのが正しいはず。
なのになぜだろう。
「放っておけません」
《真実の鏡》がぴかっと光を放った。その光はどでかい部屋を一瞬だけ白く染め、ヨロイさんの全身を照らした。黒々としたオーラが晴れ、砂漠地方独特のものと思われる数珠をいっぱいにつなげた鎧があらわになった。
「おお……」
ヨロイさんが声をあげる。
真実の鏡が、勇者の力に呼応したのだろう。褐色肌の偉丈夫がそこにいた。自分の姿を見てとても感激しているようだ。
「な、なんということだ。これぞ、我が輩の真の姿……勇者どのあなたというかたは」
「おれはなにも……」
なにもできない。
おれは歯がみをして、悔しんだ。
それをヨロイさんは、人間の姿で優しくたしなめる。筋肉質だが、柔軟性もありそうな褐色の肌が目に焼き付く。
「勇者どの、これでよいのです。我が輩の望みをあなたはすべて叶えてくださった」
「ずるい……」
「なんですと?」
「そんなのずるいですよ、ヨロイさんだけいい思いをしているじゃないですか!」
やけっぱちだった。
だだをこねる子どもだった。
「すると勇者どのは我が輩になにか願うことがあると?」
「はい」
「ではなんなりと。我が輩にできることならなんでもして差し上げますぞ!」
「ヨロイさんの願いは叶えてさしあげます」
「ふむ」
「でもただじゃさせません、全力でおれと勝負してください」
「ふむ…………、なんですと!」
今度はヨロイさんが驚く番だった。
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