第9話 物騒なことをおっしゃるヨロイですね……

 宝物庫前。

 これまで見てきた入り口とは桁違いの大きさの長方形が、壁面に穴をうがっている。


「ここに《真実の鏡》が?」

「はい、最奥に安置されております」


 あれか……。


 燭台の灯りに照らされて、鋭く光る円形の物体があった。ほかの宝物よりもいっそう輝きを放っているように感じられた。


 近づいて手に取ってみる。

 後ろを振り返ると、なぜかヨロイさんは近づいてこようとしなかった。

 なんで避けるように遠くで見ているのだろう。


「うっ……」


 そんなことを考えているときだった。


「お、おれは……早く記憶を取り戻すために……」


 な、なんじゃこりゃ!

 声が勝手に出てくる!


「魔王グリフォンを倒さなきゃいけないんだあああああああ!」


 駄目だ、逆らえない。

 のどに魚の骨がつっかえて、それが取れずに苦しむ状況と似ている。


「ふむ、ほんとうでしたか」


 そう言ったのはヨロイさんだ。

 おれも聞き返す。


「まさかこれが?」

「ええ、真実の鏡の前では真実しか語れません」

「驚かさないでくださいよ……ったく」


 信用ないなあ、おれ。

 まあうさん臭い勇者やってるからね。


「しかし、記憶喪失の勇者とはまたなんとも言えない立場ですな」

「返す言葉もございません!」


 おれは平謝りした。

 記憶喪失ってことは、もしかすると敵の可能性だってあるわけだ。まあ人間の姿や形をしている時点でおれは人間側ってことになるんだろうけど。

 それでも後ろめたさは残るってもんだ。

 もっと堂々と勇者として接したかったぜ。


 おれの肩をヨロイさんは軽くかちゃかちゃと叩いて、話す。


「なにも責めることはできません」

「ヨロイさん……」

「よ、ヨロイさん……?」

「あ、すんません。勝手に自分のなかで呼んでました」


 すると、ヨロイさんのオーラの質が変わったように感じた。なんかこう……寂しげに。

 罪悪感があるなあ。


「すみません、ちゃんとお呼びすればよかったですね」

「いえ、我が輩など名無しの鎧でけっこうですよ、勇者どの」

「それにしては……どうにも……気分が優れないように見えるんですけど」

「察しもよいですな、その通りでございます」

「?」

「勇者どの」

「はい」

「我が輩を殺してください」

「はい?」


 なにやら物騒なことを口にしたヨロイさんだった。

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