第8話 冒険者? いえ、いまは盗掘者です

 ピラミッド。

 それは神秘の建造物。

 巨大な正立方体の岩を組み上げて作り出された姿は、異様とも言えるかもしれない。


「……おれ盗掘者の気分」


 入り口までやってきたおれは、長方形に口を開ける暗闇を見て、ぼやいた。

 ぶっちゃけ、その通りであった。


 求める《真実の鏡》は、ピラミッドにまつられる古代王への献上品だ。世界を救うのに必要だからと、いにしえの為政者が持ち出しを許してくれるかどうかはわからない。魔物と仲良くしていたかもしれない時代だったら、おれは入った瞬間に敵とみなされるだろう。


 砂漠地帯の道中のエンカウント率がやたら低かったのが、逆に不安をかき立てる。単純に、こちらのレベルが高くて魔物が襲ってこなかっただけだと考えたい。


「……行くか」


 覚悟を決めた。


《真実の鏡》はピラミッドの最深部にある。

 そこまでさまざまな仕掛けを突破していかなければならないのだが、例によってなぜか全部おぼえているので問題ではない。最短距離でいけるはずだ。


 問題はやはり魔物との遭遇……エンカウントだ。

 広い部屋だらけの構造をしているへんてこな設計とはいえ、逃げている最中にべつの魔物が引っかかって、連続戦闘でもたつくことは避けたい。ピラミッドの魔物は王を守る者なので、いっせいに襲いかかってくることがないのはありがたいが。


「……うーん、逃走率どんくらいまで上がってるんだろう」


 ぼやきながらピラミッドをすこしずつ進んでいく。

 走ると足音で魔物が寄ってきちゃうかもしれないからね。


 逃走率に凝ったシステムはなかったはずだ。自分のレベルと敵のレベルから補正をかけて、ランダムに成功か失敗が判断されるシンプルなもの……またこの謎現象か。


 がちゃり。


 とか考えていたら、金属のこすれる音がして、思わず悲鳴をあげそうになった。

 鎧型の魔物だ。ちなみになかは空洞のはず。

 特徴はオフェンス寄りの行動を取る。なのでディフェンス寄り安定なのだが、なぜだか一向に攻撃してこない。どういうこっちゃ。しびれを切らしてこちらから攻撃しちゃおうと思ったとき、鎧が微妙に動いた。


「盗掘者か?」

「いえ」


 おれ、すごく……棒読みです。だってこええもん!

 人間の言葉に精通した魔物もいるとはわかっていたけど、いきなりは心臓に悪すぎる。

 いやでも王墓の守護者ならこのくらいはできて当たり前なのだろうか。

 なんにせよ、びびりまくりで声も出ません。


「……」

「……」

「なにか言ってみよ」

「し、《真実の鏡》をお借りしたくて」


 なーに真面目に答えてんだおれ!

〝ほう、どうやら殺されたいようだな〟とかなっても文句なんざ言えねえぞ!


「ふむ、なにやら事情があると見たが?」

「まったくその通りで!」


 話のよく通る耳……はないか、鎧をお持ちの魔物さんで助かりました、はい。

 そこでおれは知りうる限りの情報をヨロイさん(と呼ぶことにした)に話した。


「なんと……我らの王の治めし地が邪悪なる魔物に荒らされていると」

「って聞いてここまで来たんですがね」

「我が王はいま安らかな眠りについておる」

「お手をわずらわせるのも悪いですよねえ!」

「わかっておるではないか」

「褒めてます?」


 ヨロイさんは表情が見えないので、感情を読み取ることはできない。兜の奥を見ても暗闇が満ちているだけである。なんとも不思議なお方だ。


「ではおぬしが代わりに真実の鏡を用いて魔物を討伐すると?」

「そのつもりです」


 ヨロイさんが歩き始めたので、後に続きながら話を合わせる。

 宝物庫に向かっているのだろう。


 ピラミッドのなかはひんやりとしていて、猛暑の外とはえらい違いだ。快適快適。


「勝算はあるのだろうな?」

「も、もちろんです!」


 ヨロイさんの出すオーラにひるんでしまった。

 この人、絶対に生前は将軍とか豪傑とかそんな感じの人だよ!

 まあ、なんにせよ必勝法のある相手は怖くない。怖いのは真実の鏡を手に入れるまでの道中なのだ。魔物が化けているいまの王にはさっさとご退場を願わなければならない。


 くっくっく……。

 攻略チャートに感謝! って、チャートってなんだったっけ? うーむ。


「おぬし、もしや、たばかっておるのではなかろうな?」

「いきなりどうしたんです?」

「瞳にあやしい光を見たものでな」

「はっはっは、ご冗談を。仮にも勇者がはかりごとなんてしませんよ」


 ……油断も隙もあったものじゃない、このヨロイさん。

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