アイドル→漫才

タヌキング

究極に完璧に利用する元アイドル

「ウチな‼アイドルになるわ‼」


幼稚園の頃、アカリちゃんが公園のジャングルジムの一番上に登り終ったあと、そんなことを高々と宣言した。

その時の私は大変驚いた。別にアイドルになるからとアカリちゃんが発言したからではない。その発言により昨日の約束を反故にされたからビックリしたのである。


「アカリちゃん、昨日私と漫才師になる言うたやん。嘘つき。」


指切げんまんまでしたのに裏切られ、私の目からは一気に涙が押し寄せて来た。

だが肝心のアカリちゃんは悪びれた様子もなく、ジャングルジムを降りて私に駆け寄るなり、こんなことを言うのだ。


「クロエちゃん勘違いせんといて、アイドルになってから漫才師になるねん。売れてるアイドルだった女が漫才師になったら面白いやろ?話題性抜群やで。」


私の涙をハンカチで拭いながらアカリちゃんがそんなことを言ったが、かなり難易度が高いと思う、漫才師になるよりアイドルで売れる方が難しいと思うし。


「そんなん無理やわ。良くて地下アイドルやわ。」


「アホ言うな、ウチ可愛いし、結構いいとこまで行くわ。」


「そうかなぁ。」


アカリちゃんがアイドルになれるかは分からないけど、テッペン取るまで言わずに、結構いいとこまで行くというのが何ともアカリちゃんらしい。

けど本当にアイドルで売れた後、漫才師に転職なんてこと出来るかな?



~20年後~


「はいはいはい♪アカリでーす♪」


「クロエでーす♪」


「二人合わせて、ライト&ダークでーす♪宜しくお願いします♪」


「いや、それにしてもすっかりアカリちゃんも漫才師が板について来ましたな。」


「しっ‼あんまり大きな声で言わんといて‼」


「なんでや?」


「ウチがアイドルやったの秘密やねん‼」


「いや何言うてんねん。皆知ってるよ。アカリちゃんがメンバーと髪をひっつかみ合いの喧嘩したことも皆知ってるし。」


「黒歴史や‼ばらすなや‼もう嫌や‼こんな精神状態で漫才なんて出来へん‼帰る‼」


「いやアイドルから漫才師になったくせに、メンタル弱いってどういうことやねん。あとで飴ちゃんあげるから機嫌直しや。」


「えっ?ええの?わーいやったー♪飴ちゃん大好き♪」


「チョロ‼心配になるチョロさやで‼」


「ということでアタシ元アイドルなんですよー。」


「いや自分で言うてるし‼サイコパスか‼」


「お客さんの中にも私のファンだった人居るとかもですけど、もう営業スマイルとか出来ないんで笑顔とか期待しないでね♪」


「辛辣‼スマイルぐらいしてやれや‼」


「・・・もう一生分の愛想笑い使い果たしたわ。」


「疲れた顔で何言うてんねん。アイドルの闇出すなや。」


「そやかてアイドルって大変なんやで。」


「そりゃ大変やろ。歌ったり踊ったり、握手会とかもあるんやろ?」


「あークロエさん分かってらっしゃらない。駄目ですねぇ。アイドルの大変さを全然理解してらっしゃらない。」


「そやったら何や?アイドルの大変なことって?」


「アイドルはね、ウンコ出来ないんですよ。」


「・・・はっ?」


「アイドルはウンコしないって話あるじゃないですか、あれ本当なんですよ。」


「いや待て待て、人間やぞ、ウンコするやろ?」


「しません、アイドルはウンコしません。皆我慢してるんです。」


「我慢って、アカリちゃんはアイドル何年してましたっけ?」


「五年です。」


「いやアホか‼五年もウンコ我慢してたら、体の中ウンコだらけやん‼」


「はい、ウンコだらけで歌って踊って夢振りまいてました。」


「いやサラッと何言うてんの⁉衝撃的過ぎるやろ⁉」


「踊ってる時に実が出そうになったこともありました。でも私は歯を食いしばって我慢したんです‼」


「歯を食いしばったら逆に出そうやけどな。」


「だから嬉しかったで、アイドル辞めた後、初めてしたことは大便やねん。花摘み放題や。」


「汚いわぁ、隠語も最早意味なくなってるし。」


「芸能界って汚い所やねんで。」


「いやそういう意味⁉人間的汚さじゃなくて、ガチの汚さ⁉」


「まぁ、五年も溜まってたウンコやからな小出しにして、ようやく今日全部出し切りましたわ。身も心も綺麗な私を皆愛してね♪」


「いや何をカミングアウトして、アイドル感出してるねん。もういいわ。」




礼をした後、二人でステージ舞台袖に移動。

緊張していた糸が解けて、二人揃って溜息を吐いた。

劇場での漫才はいつもお腹が痛くなるぐらい緊張するし、喉がカラカラになる。


「お客さん結構ウケてたね。」


私がそう言うと、アカリちゃんは納得していない様で、苦虫を噛み潰した顔をしている。


「いや、アイドルネタでこんぐらいやとアカンな。もっとネタ作り頑張ろうや。」


アイドルをしながらアカリちゃんは漫才の勉強も欠かしたことは無かった。養成所に居る私と連絡を取りながら、二人でネタ作りなどしていたぐらいである。

アイドルをして向上心が身に付いたのか、いつでもアカリちゃんは真剣であり、たまにそれが私のプレッシャーになる事もあるけど、相方として非常に頼もしい。

アイドルを引退する時は色々揉めたらしいけど、それでもアカリちゃんは私との約束を守ってくれた。それが嬉しくて堪らない。


「アカリちゃん、漫才師でテッペン取ろうな。」


「・・・フッ、何を言い出すと思ったら、愚問やで。漫才界でも人気投票一位目指すんや♪」


二人でニカッと笑い合い、楽屋に帰って今日の反省会を始めることにした。

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