第42話 運命のツガイ(sideシシ)
ククの発情期が漸く訪れ、シシは自分の余裕のない行為に、内心焦りながらもククへの愛を全て注ぐ。
ククが運命を口に出せない状況で、何度も項を噛もうとするが、なんとか踏み留まって別な場所を噛んでいく。
それにより、ククの体はシシの噛み痕だらけになり、そんなククは今、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
(ククの初めての発情期……あぁ、嬉しい。こんなに嬉しいと思える日がくるなんて、想像もしていなかった。可愛い可愛い可愛い……愛してる。もう、狂ってしまえばいいのに)
シシはククの項を撫で、口づけをしては牙を立てようとする。
しかし、ククを運命のツガイにするのなら、やはりククの口からしっかりと聞きたかった。
焦る必要のなくなったシシにとって、ククからの言葉は大事であり、流れに任せて噛みたくはなかったのだ。
(噛みたい。ククの運命のツガイ……どんなに幸せなんだろうか。これ以上の幸せがくるのか、それとも苦しいものなのか……どんな未来でも、俺はククを手放したりしない。最近は古竜が来ているようだけど、そんなもので俺は焦ったりは――)
「んうぅ……シシ?」
古竜を警戒していると、ククが敏感にシシの変化を感じ取ったようで、眠そうに目を擦りながら目を覚ました。
「クク、おはよう。よく眠れた?」
「うん……でも、まだお腹が熱い」
(ぐッ……可愛い。ククの発情期は色気も凄いね)
シシはククに噛みつくような口づけをして覆い被さるが、そんなシシの顔をククは両手で挟んで真剣な表情になる。
「シシ、何を警戒してるの?僕の巣は安心できない?だから……項、噛んでくれないの?」
オメガの巣は、お互いが安心できるように作っているため、古竜を警戒しているシシを見たククが不安になるのは仕方ないだろう。
そんなククの様子にハッとしたシシは、ククを抱きしめて謝った。
「ごめんね、クク。この巣はククが作ってくれたものだし、安心できないわけではないよ。ただ、ククの口から運命を聞きたくて、噛まなかった……意地の悪いことをしたね」
「……僕、運命を言ったら、噛んでくれるの?僕は早く噛んでほしい。シシ……僕をシシの運命のツガイにして。シシは……霊冥は僕の運命なんだ」
その瞬間、思考というノイズが一切なくなり、シシはアルファとしての本能と、ククへの溢れる愛によって自然と体が動いた。
ククを引き寄せ、項に牙を立てる行為。
それはククとの繋がりを強くし、互いの神力が混じり合って、決して解ける事のない二本の鎖が絡み、二つの魂を一つにしてしまう。
そうして、ひとつになった魂を守るように、絡み合った二本の鎖には鍵がかけられた。
(あぁ……やっと手に入れた。俺の運命。俺のオメガ……俺だけのクク)
「シシ、嬉しいね。幸せだね。僕を愛してくれて、ありがとう」
ククは涙を流しながらも笑顔の花を咲かせる。
その笑顔は、シシがこれまで見てきたどんな笑顔よりも美しく、愛しいものであり、キラキラと輝いて見えた。
(俺の花……そうだ、これは俺の大切な花だ。海底に咲く奇跡の花。シャチでありながら血を嫌い、モノノケなどの多くの者を惹きつける。これは立派な狩りで捕食者のソレだ。そうか……俺がククを捕まえたのではなく、俺がククに捕まったんだね。だってほら……こんなにも桜が咲く)
シシの龍の尻尾は桜が咲き、尻尾を揺らしても満開に咲き続ける。
それを見るククは嬉しそうに尻尾を振り、発情期のフェロモンでシシを誘った。
「ありがとう、クク。俺はククに捕まえてもらえて幸せだよ」
「なに言ってるの。僕がシシに捕まったんだ。だから、責任取って」
(本当に分かってないんだね。まあ、そんなところも可愛いけど)
「喜んで責任を取るよ。だから、もう手加減はしない」
ニヤリと笑ったシシに、ククはビクリと肩を震わせてフェロモンを抑えるが、その頃には既に遅く、シシは狂ったようにククを求め続けた。
それから更に数日後、ククの発情期が終わってもシシはククを解放せず、ククが泣きながら必死に頼んだところで、漸く巣から出る事となった。
そして現在、ククは水浴びをして気持ち良さそうに泳いでいる。
(あんなに泣くとは思わなかった。確かに加減はしなかったけど……必死に泣く姿は可愛かった――)
「キュッ……シシ!今、変なこと思ったでしょ!」
運命のツガイとなった二人は、お互いの気持ちが感じ取れるようになったため、ククは威嚇をしながらもシシの尻尾に咲く桜に優しく触れる。
ククはシシの桜を気に入り、宮殿の中では尻尾を出しておいてほしいと、シシに頼んできたのだ。
そのため、シシは尻尾を出した状態で水浴びをしている。
「変なことじゃないよ。ククのことを可愛いと思うのは、当然のことじゃないかな」
「……確かに、僕は可愛い」
(ナルシスは相変わらずだね。そんなところも可愛いし、退屈はしないけど……うん。これは、俺がククを理解してあげないといけないね)
ククは自分が可愛いと自覚しているため、それ以上威嚇することはなかった。
しかし、シシはほんの少し嫌な予感がした。
ククはシシの感情も全て感じ取っているはずなのに、明らかに独自の思い込みをしているのだ。
これは、シシがククのことを理解できるようになったことで分かった事だが、ククは色々と考えているものの、シシの考えが難しいと思っているようで、独自の解釈をして勝手に納得してしまっていた。
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