第41話 求愛
ククがシシに言ったことは、シシにとって苦しみと喜びの戦いであり、今ですら尻尾をしまえないほど、気持ちが昂っていた。
発情期ではないが、シシが発情しているのは間違いなく、ククはシシの匂いが濃くなったことで、呑気に尻尾を揺らす。
(ふふっ、シシが喜んでる。でも、そんなの今のうちだけだ!僕の巣に入ったら最後。触ったら駄目だし、動く事も許されない、求愛の苦しみが待ってるんだから!)
シシが既に苦しんでいるとも知らず、ククは早速シシを中へと連れて行く。
そして、灯りが欲しいと言ったククを刺激しないよう、シシはククの望む通りに創造し、慎重に床に置く。
巣に入れるものはククが選ぶため、シシは敢えてククに渡さず、ククは灯りが欲しいと言いながらも、桜の花弁が集まる巣には持っていかなかったのだ。
「シシはそこに座って、僕の求愛を見ていてね。でも、僕が外に出る時は一緒に来てほしい。ずっと一緒にいて……お願い」
「ぐッ……喜んで一緒にいるよ。ただ、悶えてることがあると思うから、そのあたりは多めに見てほしいかな」
(僕はそれが目的だからいいんだ!僕の求愛で、たくさん苦しんで)
もはやククのなかでは、巣作りが求愛になっているため、ククは容赦なくシシに求愛し、シシの服を脱がせて巣へ持っていく。
一枚ずつ持っていっては、その度に巣の中でシシの服を着てみたり、服の中に潜っては尻尾を揺らして、満足するまで一人で遊ぶ。
そうして少しずつ巣を広げていき、桜が足りなくなれば外へ行って、小さな手に桜の花弁を握りしめて運ぶのだ。
桜の花弁を握りしめれば、当然バラバラに千切れてしまったり、丸く潰れてしまうところだろうが、ククは自分が集めた桜の花弁の時間を止めていた。
そのため、枯れもしなければ傷つく事もないため、握りしめて集めることができるのだ。
「――クク、それは駄目だよ。巣に持ってはいけない。あと、そっちも駄目」
「嫌だ。シシの匂いがついてるのに」
巣作りが始まってから月日が経ち、ククはシシの匂いがついた物を、ほとんど全て巣の中へ持って行った。
巣の中に籠る事はなかったが、シシの物を少しずつ巣に運び入れては遊びながら巣作りをしていくため、ククの巣作りは終わる事がなく、シシの物がどんどん減っていくのだ。
そして今、ククはジオラマと白狼を巣の一部にしようとしているのだが、ジオラマは冥界にとって必要不可欠であり、白狼はそもそも物ではない。
だが、白狼は満更でもない様子でぬいぐるみのふりをして動かず、ククにお尻を押されている。
「俺の匂いがする物なら、いくらでも作ってあげるから、それだけはやめてほしい。ククの巣はなんの為に作っているのか思い出してごらん」
「……シシの為。シシの桜を咲かせたい」
「そうだよね。でも、今のククは俺を困らせてる。俺が笑わなくてもククは笑えるの?」
「ッ……ごめんなさい。諦める。だから、シシに笑ってほしい。何を巣に入れたらシシは喜んでくれる?」
ククはシシの手を握り、首を傾げながらシシを見上げた。
そんなククに、シシは尻尾を揺らして悶えながらも、ククの匂いがついた物が欲しいと言った。
だが、それはオメガの巣作りにおいて、不要なのだ。
というのも、オメガはツガイの匂いがついた物を集め、それらに自分の匂いをつける事で、巣が完成するのだ。
ククはシシの物を運ぶたびに、遊びながら自分の匂いをつけ、その行為を見る事が許されているシシは、もう限界に近かった。
そのため、巣の完成を待つという意味で、ククの匂いがついた物が欲しいと言ったのだ。
「僕のものは必要ないけど、僕の匂いはついてるよ。だから安心して」
「そっか、それなら安心してククの発情期を迎えられる。楽しみだね、クク」
シシはククの頬に口づけをし、首元の匂いを確認する。
それはククも同じで、お互いがお互いの匂いを確認する事で、発情期の準備をしていくのだ。
(シシ、本当に嬉しそう。匂いも濃くて……花の匂い?これ、桜の匂いかな)
「クク、そろそろ発情期かな。匂いが変わってきた」
「シシも変わった。これって、そろそろなの?でも、まだ巣作りが終わってない」
「大丈夫だよ。焦らなくても、ククにとって良いタイミングで発情期がくるから安心して」
ククは焦った様子でシシを桜の木の中へ引っ張り、シシはそんなククを止めようとするが、木の中へ入ってしまえばあとは見ている事しかできなくなる。
そのため、最後の仕上げのようにククが自分の巣から出なくなり、シシの服の山に潜って眠るようになると、シシは外へ出る事ができなくなった。
そうして数日、眠り続けるククの匂いを頼りに、シシはククの巣へ近づいていき、シシが巣の中へ入ると、ククは目覚めてシシを巣の中へ招き入れたのだ。
「シシ……好き」
「俺も愛してる」
巣の中へ入っても、まだ発情期がきていないククは、シシに抱きついて離れず、シシもククを抱きしめ、発情期がくるまで何度も口づけをし、愛の言葉を囁いた。
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